モアレ型メタ表面は金属2次元周期構造を2枚重ね合わせるときにあえてずれを加えることで生じるモアレパターンに着目したメタ表面である。特にずれをベクトル場としてとらえたとき、その動的な制御手法とそれによるテラヘルツ波の制御について研究を進めている。本年度は、モアレ型メタ表面におけるベクトル場により感じる幾何学的位相の変調手法を改良し、その実証実験を行った。 幾何学的位相の変調手法について、当初2層の2次元構造を面内での相対的な位置をずらすことで、変調できると考えてきた。しかし、その場合、動的に相対位置を変調するには、精密な位置合わせが必要であった。そこで、見かけの相対位置が変わることによる光の進行方向変化に応じたモアレパターンが発生するという、視差によるモアレに着目した。光にとって、視差によるベクトル場の変化を感じられれば、入射角による変調が可能となることを意味する。前年度数値的に可能性を見いだしたこの手法を実証するため、非等方歪メタ表面を作製し、入射角依存性の実験を行った。これにより、単に入射角を振るだけでテラヘルツ波の円偏光度が変調できることを実験的に明らかにした。一方で昨年度より続く励起レーザーの老朽化によるパワー不足により分光など応用に耐えるには十分な信号強度が得られず、光源の刷新など実用上の課題が残った。この応用展開として、歪を導入しない2重メッシュ構造にビームを集光することでも光に構造の対称性に応じたトポロジカルチャージを付与できることが数値的に予言できている。 研究の波及効果の一つとして、本研究でその作成手法を培った金属ランダムメタルマスクが、可視からテラヘルツ領域までの超広帯域での単画素撮像用の空間変調マスクに応用可能なことが実験的に明らかとなっているほか、本研究で得られた幾何学的位相の知見は異なる光学系においても応用の可能性が見いだされている。
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