研究課題/領域番号 |
18K04968
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
茨田 大輔 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (80400711)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | レンズレスディジタルホログラフィ / 超解像顕微鏡 |
研究実績の概要 |
レンズレスディジタルホログラフィは、観察物体を照明したときに生じる散乱光をできるだけ受光することが高解像度の鍵となる。特に、広い散乱角をもつ散乱光を取得することが重要おとなる。そのためには、観察物体と撮像素子を近接させるか、受光面積の広い撮像素子で受光する必要がある。ディジタルホログラフィでは、観察物体からの信号波を参照波を重ねて干渉縞を撮影する必要があるため、観察物体と撮像素子の間には距離が必要である。そこで、受光面積の広いCCDカメラを購入して使用する予定であったが、良い広い散乱角の散乱光を受光するため、複数のフォトダイオードをアレイ状に配置して撮像系を作製することにした。提案する超解像顕微鏡の原理検証実験を行うためには、画素数は少なくてよく、広い散乱角の光を受光できればよいので、フォトダイオードは1列に64個並べ、直進ステージによって走査することにより、64×64画素のデータを取得可能である。フォトダイオードの間隔は約5mmであるため、300mm×300mm程度のディジタルホログラムが撮影可能となる。フォトダイオードからの信号は、8個ずつPCで読み取る構成にし、8ビットシフトレジスタを構成することによって、全フォトダイオードからの信号を読み取れることを確認した。 平成30年度に実施予定であった、電子ビームリソグラフィによる微細既知パターンの作製については、電子ビーム描画装置が故障によって使用不可能となったため、平成31年度以降に行うこととする。 ディジタルホログラムから抽出するためには、大規模の連立方程式を解く必要があり、計算アルゴリズムを工夫しなければ、大きな解像度のデータを扱うことができない。そこで計算コストの削減のため、高速フーリエ変換をベースとした計算手法を提案した。その方法で観察パターンの再構成を行ったところ、従来法より解像度を髙くできることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
微細既知パターンの作製するために使用予定であった電子ビーム描画装置が故障によって使用不可能になったため、計画を変更せざるを得なくなった。令和1年度以降に修理費として支出するため、平成30年度の予算執行は予定よりも少なめに抑えた。そのため、大面積のCCDカメラを購入する代わりに、フォトダイオードアレイによって撮像系を構成することとした。しかし、この新しい構成によって、購入可能なCCDカメラよりも広い散乱角の散乱光を取得可能になったため、結果的には有用な変更であると考えている。また、微細既知パターンの作製の代わりに、取得したディジタルホログラムから観察パターンを抽出するアルゴリズムの低計算コスト化に関する研究を行った。このアルゴリズムの一部は、ノイズに強くし、ロバスト性を高める効果もあるので、得られた知見は後に重要となる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度で提案した高速フーリエ変換を用いた観察パターン抽出方法は、従来法よりは解像度を高められることが示されたが、目標値である、波長の10分の1という精度を達成することが難しい。そこで令和1年度では、平成30年度で得られた知見を用い、別の手法を実施する。当初の提案していた方法は、ノイズの含まれるディジタルホログラムから再構成した観察パターンから逆に、撮像素子面でのパターンを求めると、観察パターン抽出に使用したサンプリング点上のデータは一致するが、サンプリング点の間にあるデータは元の観察パターンと比べて滑らかではないパターンとなる。そのような状況のとき、再構成されたパターンは、元の観察物体のパターンとは全く異なる。このことは、本手法では原理的にまったく異なる複数のパターンがサンプリング点上だけに注目すると近いディジタルホログラムを作るためである。本手法で取得したディジタルホログラムは、広い散乱角をもつ信号波と一点から広がる球面波状の参照波を干渉させるので、干渉縞パターンは滑らかとなる。よって、あるサンプリング点周辺で低次のテイラー級数で関数フィッティングを行う。この方法によりノイズ低減を行うとともに、サンプリング点毎に、その点を中心としたテイラー級数を求める。このテイラー係数を用いて、観察パターンの再構成を行う。このとき、サンプリング点間の滑らかさも保証される。この新しい方法では、サンプリング点間でまったく異なるパターンにすることを許さないので、この方法によって再構成したパターンは観察物体と近い可能性が高い。 また、平成30年度で作製したフォトダイオードアレイを用いた撮像系は、まだ直進ステージを用いたスキャンシステムが未完成であるため、令和1年度で完成させる予定である。 さらに、電子ビーム描画装置の修理を行い、微細既知パターンを作製する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
微細既知パターン作製のために使用を予定していた電子ビーム描画装置が故障により使用不可能となった。修理するためには、200万円程度必要であるため、平成30年度の装置使用料を令和1年に修理費の一部として用いることにした。また、平成30年度購入予定であったCCDカメラも購入せずに、フォトダイオードアレイによる撮像系を用いることにし、その差額を修理費として使用する予定である。
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