研究課題/領域番号 |
18K04983
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研究機関 | 公立千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
唐澤 直樹 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 教授 (00337099)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デジタルホログラフィー / 超高速現象 / 超短光パルス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は超高速現象の時間的発展を計測するために提案されたチャープパルスデジタルホログラフィーの実験的検証を行うことである。本手法において超短光パルス光源からチャープパルスと超短光パルス列を生成し、それらの干渉信号を光センサー上に多重記録し、波面を再構築する。これにより時間差3.67ピコ秒の二つの振幅・位相画像が静止物体において得られることが昨年度に実証された。 本年度はチャープパルスデジタルホログラフィーの超高速現象における実験的検証を目指して実験を行った。実験ではパルス幅35フェムト秒の超短光パルスを二つのパルスに分割し、一方をガラスブロックに透過させてチャープパルスの参照光を発生させた。他方のパルスは干渉計を用いて、さらにそれらを3.67ピコ秒の遅延時間を持つ二つのパルスに分割して物体光とした。今回は高圧力のノズルから噴射する空気の位相画像の測定を多数のパルスの平均画像を用いて行った。またスパークプラグに高電圧を印加する電子回路を試作し、それにより生じたスパークプラグの電極間の火花放電の位相画像の測定をシングルショットパルスを用いて行った。この際、高電圧発生回路及びCMOSカメラをパルスピッカーを用いて切り出した単一パルスと同期させた。ノズルから噴射する空気の画像では位相が増大している領域の定常的なパターンが観測され、そのパターンが圧力と共に変化することが観測された。そしてこのとき得られた屈折率変化により圧力分布を計測した。火花放電における位相画像においては放電が生じている領域で位相が減少している画像が計測された。これは放電による自由電子の発生によるもので、その屈折率変化から自由電子の密度を計測した。これらの実験より10の-4乗のオーダーの屈折率変化が測定され、チャープパルスデジタルホログラフィーが高速現象の計測に極めて有用であることが実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究代表者はチャープパルスデジタルホログラフィーの提案を行い、この手法を用いることによりピコ秒程度の時間間隔で複数の3次元波面情報を記録・再生できることを数値計算的検討で示した。そして昨年度は実験系を試作して実際に実験を行うことにより、静止物体においては3.67ピコ秒間隔の二つの時刻における振幅・位相画像が得られることが実証した。 本年度はこの手法を用いた高速現象の振幅・位相画像取得の実証実験を行った。対象とした現象はノズルからの高圧空気の噴射及び高電圧印加によるスパークプラグの電極間の火花放電であった。ノズルからの高圧空気の噴射においては取得した位相画像から定常的な空気の圧力分布が観測され、それが印加圧力によって変化することが示された。また火花放電の実験ではシングルショットのパルスを用いて取得した位相画像からプラズマ発生に起因する自由電子の密度の分布が得られた。このようにチャープパルスデジタルホログラフィーが高速現象の解明に有用であることを実証できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はチャープパルスデジタルホログラフィーによって、ノズルからの高圧空気の噴射、及び高電圧印加によるスパークプラグ電極間の火花放電の画像計測実験を行った。これらの実験によって計測された位相画像から屈折率変化が得られ、高圧空気の噴射の場合圧力分布が得られた。また火花放電の場合は自由電子の密度分布が得られた。このようにこの手法により高速現象に関する重要な知見が得られることが分かった。特に火花放電の場合はそれぞれの放電が異なるためシングルショットの計測を行った。しかし今回用いた二つの現象ともその位相の変化速度はピコ秒よりはかなり遅く、本実験で用いた3.67ピコ秒の時間間隔においては得られた二つの振幅位相画像の差異はほとんど見られなかった。そこで今後は光学系の改良と並行して、さらなる超高速現象の画像取得を試みる予定である。現在想定している超高速現象としては超短光パルスと物質の相互作用によって生じる非線形位相変調やアブレーションなどの現象があげられる。これらの現象の画像を取得するためには画像化に適した超高速現象の選定およびそのための光学系の試作が必要となる。そこでこれらについて検討し、実験を進めていく予定である。さらに現時点では物体光は二つのパルスから成っているため二つの時刻の現象しか記録することができない。そこでそのパルス数を増加してより多数の時刻での画像取得を行うこと等も考慮する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で学会が中止となったため不要となった旅費があったこと、また光学部品の選定等に関して未確定のものがあったため、当初予定していた金額に未使用分がある。これは本年度計画している実験のための光学部品の購入等に有効利用する予定である。
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