研究課題/領域番号 |
18K04984
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
北野 健太 青山学院大学, 理工学部, 助教 (90586900)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超蛍光 / 非線形光学 / 量子多体系 / 四光波混合 |
研究実績の概要 |
ヨーク超蛍光とは超蛍光によって誘起される非線形光学現象の代表例である。本研究の目的は、超蛍光によって誘起される非線形光学現象という物理系に関する理解を深め、さらにその現象を用いて、新規非線形分光法を開発することである。前年度までに、ルビジウム(Rb)原子のヨーク超蛍光に伴う青色光の空間強度プロファイル、ならびに波面プロファイルを測定した。その結果、ビーム中心における励起光の強度が二光子ラビ振動の変曲点を超えると、青色光の空間強度プロファイルがリング状になり、同時にその波面が湾曲する事が実証された。この結果は、励起過程で生成される電子波束の非線形位相が青色光の波面に転写されていることを実証するものであり、青色光発生のメカニズムについての理解を深めるものであった。今年度の展開として、セシウム(Cs)原子を一光子で励起させた後に起こる、カスケード超蛍光、ヨーク超蛍光過程に関する研究を開始した。具体的には、カスケード超蛍光で発生する中赤外光と可視域のヨーク超蛍光とを観測する事に成功した。さらに、一連の脱励起過程をナノ秒レーザーを用いる事でコヒーレントに制御し、新たな光(フォース超蛍光)を観測する事に成功した。得られた実験結果に関しては、マックスウェル・ブロッホ方程式を用いて定量的に再現する事に成功した。数値シミュレーションの内容から、制御光は、フォース超蛍光を発生させると同時に、カスケード超蛍光の発達を阻害する事によって、間接的にフォース超蛍光の発達を抑制する事が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時に計画していた実験のうち、既に昨年度までに多くを完了させることができた。それらは、Rb原子を用いたヨーク超蛍光の発生メカニズムを理解するために予定していた、青色光の強度プロファイル、波面プロファイル、および時間プロファイルに関する測定である。特に、波面プロファイル測定では、シングルショット計測を導入し、超蛍光の起源である量子揺らぎを計測する事にも成功した。以上の内容を持って、Rb原子を用いたヨーク超蛍光に関する実験については十分な知見が得られたと判断した。そこで、今年度の展開として、セシウム(Cs)原子を一光子で励起させた後に起こる、カスケード超蛍光、ヨーク超蛍光過程に関する研究を開始した。具体的には、波長387nmのフェムト秒レーザーを励起光源として用いる事で、波長455nmのヨーク超蛍光を観測する事に成功した。次に、一連の脱励起過程をナノ秒レーザーを用いて制御する事で、新たに852nmの指向性の高い光を観測する事に成功した。その際、852nmが放出される条件下においては455nmは放出されない事から、極めて高い精度で脱励起過程が制御されていると期待される。この内容は、超蛍光によって誘起される非線形光学過程を外部光源によって制御できる事を実証するものである。以上のCs原子を用いた実験は、本研究の発案当初は予定されていなかった。新しい遷移スキームの実現によって、ヨーク超蛍光に関する包括的な理解を得る事ができた点を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、新たにCs原子の三光子脱励起過程で放出されるカスケード超蛍光、ヨーク超蛍光に関する実験を開始した。その際に、それらの偏光特性に関して極めて興味深い実験結果が観測された。励起光源であるフェムト秒レーザーは直線偏光であるのに対して、カスケード超蛍光で放出される中赤外光とヨーク超蛍光の偏光はランダムであった。その際に実施した偏光測定は複数ショットを平均したものである。これらの実験事実は、カスケード超蛍光で経由する中間状態が球面対称のS軌道である事と矛盾しない。この点を踏まえると、シングルショットで偏光を測定する事ができれば、中赤外光とヨーク超蛍光の偏光方向には強い相関があるものと期待される。超蛍光のダイナミクスに関しては、約半世紀に渡り、精力的な研究が行われてきた。一方で、その偏光特性に関しては、先行研究が非常に少ない。本研究で超蛍光を含む非線形光学過程に関する偏光特性が明らかになれば、超蛍光に関する新しい測定手法が確立されると期待される。 上記の偏光特性に加えて、中赤外光とヨーク超蛍光のビームダイバージェンスを測定する事を予定している。前者は通常の超蛍光の放出条件に従うのに対して、後者は四光波条件による制約が加わるため、より指向性が高くなると予測される。そこで、両者のビームダイバージェンスの違いを測定する事によって、超蛍光を含む非線形光学過程に関する定量的な議論につながると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたルビジウム原子を用いたヨーク超蛍光に関する研究に関しては、概ね研究計画通り実施し、期待していた研究成果を得る事ができた。その際に、当初購入を予定していた精密自動ステージやオシロスコープなどについては、一部手動ステージで代用、あるいは中古機器を購入する事によって、研究計画で予定していた額と比較して費用を抑える事ができた。一方で、当初予定していなかったが、セシウム原子を用いた新しい遷移スキームの研究に関して、新しい実験結果が得られ、本研究に関連した新しい研究の方向性が見いだされた。そこで、次年度へと予算を繰り越し、研究計画を延長する事によって、セシウム原子を対象とした研究を進める事は、本研究テーマに則しており、かつ十分に意義があると判断した。以上の内容から、次年度使用額が生じた。
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