研究課題/領域番号 |
18K04993
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
神戸 正雄 大阪大学, 産業科学研究所, 特任研究員(常勤) (60705094)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 溶媒和電子初期過程 / 水和電子初期過程 / パルスラジオリシス / 反応ダイナミクス / 超高速分光法 / 放射線化学 / 量子ビーム / 電子ビーム |
研究実績の概要 |
水、アルコール中の溶媒和電子について、溶媒和電子を再励起することで電子励起状態のダイナミクスを観測し、溶媒和電子の電子状態を解明する。溶媒和電子の特性の解明はDNA損傷や放射性廃棄物処理に関連して重要性を増しており、新しい実験的知見を追加し、電子状態、励起状態に対する理解を推し進め、応用展開に加速する。フェムト秒パルスラジオリシス装置により、電子ビームで溶媒和電子を発生させた後、レーザー光により励起し、励起状態をつくり、レーザー光を検出光として過渡吸収を測定する。過渡吸収スペクトルと、スペクトルの時間変化、各波長の過渡吸収の時間変化を直接観測することは、溶媒和電子の励起状態の観測である。これらの測定は溶媒和電子の構造と電子状態を反映している。 本研究では、フェムト秒電子ビームとスーパーコンティニウムを検出光に利用したパルスラジオリシス測定系を構築し、フェムト~ピコ秒の時間領域での迅速で簡便なスペクトルの計測を実現する。また、量子ビーム照射により生じた過渡種、特に水和電子・溶媒和電子をレーザー光により電子励起する、電子・光2段励起フェムト秒パルスラジオリシス測定を実現する。 構築した測定システムにより、溶媒和電子の電子励起状態と溶媒和前電子、溶媒和電子の関係を明らかにする。迅速なスペクトル測定を可能とすることで、系統的な溶媒選択や温度依存性の実験がこれまでより短時間で可能となるため、量子ビーム誘起反応の重要な過渡種である溶媒和電子・溶媒和前電子自体の理解を推し進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェムト秒電子ビームとスーパーコンティニウムを検出光に利用したパルスラジオリシス測定系を構築し、水およびエタノールのスペクトルの取得に成功した。他所のレーザーフラッシュフォトリシスで実現されている波長領域よりも長波長側の発光が弱いため、多少の改善が必要である。電子・光2段励起についても、励起光が800 nmの場合については、フェムト秒レーザー/再生増幅器からのレーザー光をビームスプリッタで分割し、平凸レンズで必要に応じた集光をすることで、スーパーコンティニウム発生および光励起に十分なレーザー光強度が確保できることが確認できた。一方、電子ビームの電荷量が十分に大きくとれない、または、800 nmにおける過渡種のモル吸光係数が大きくないため、十分な密度で電子励起ができない場合があることも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
概ね順調に装置の開発は進んでいるため、継続して開発を続ける。サンプルの測定を通じた測定システムの改善とともに、サンプルの種類を増やし、基礎的な測定データの蓄積を行う。これらを通じて、溶媒和前電子、溶媒和電子とその励起状態のとの関係を明らかにしていく。 装置開発面での課題は、より安定した検出光の発生と、発生強度の確保を行い、短時間測定で十分なスペクトルを得ることである。また、電子ビームのパルスあたりの電荷量については電子ビームパルス幅が長くなることを厭わずに電荷量を増やす工夫を行う。 溶媒和電子の解析においては、まず、得られたデータをもとに、溶媒和の進行によるスペクトルのシフトのモデル解析を行い、電子・光2段励起したときのスペクトルの変化と合わせて考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の中核となる装置開発に必要な備品(近赤外マルチチャンネル分光器)が、予定より高額となったため、予定していた国際会議への出席を取りやめ、また、その他の出費も大幅に緊縮したため。繰越分は次年度での研究の推進と成果報告等を計画通り行う。
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