研究課題/領域番号 |
18K04995
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
岡田 往子 東京都市大学, 工学部, 准教授 (60287860)
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研究分担者 |
薬袋 佳孝 武蔵大学, 人文学部, 教授 (10157563)
長尾 誠也 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (20343014)
角田 欣一 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30175468)
木川田 喜一 上智大学, 理工学部, 教授 (30286760)
渡辺 峻 群馬県水産試験場, その他部局等, 研究員 (30739024)
松浦 治明 東京都市大学, 工学部, 准教授 (70262326)
森 勝伸 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (70400786)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 赤城大沼 / 放射性セシウム / 濃度下げ止まり / 湖底堆積物 / 再溶出 / 分配係数 / 間隙水 / 安定セシウム |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所事故に伴う赤城大沼の放射能汚染においては事故後約7年が経過して新たに以下の2つの研究課題に直面している。すなわち「事故直後に90%の放射性Csが湖底質に分布するに至った原因」および「H27年以降、湖水とワカサギの放射性Cs濃度が一定(下げ止まり)となった原因」の解明である。これらの課題に解答を与えるべく、本年度は以下の研究を推進した。 赤城大沼湖水中の放射性Cs濃度の下げ止まりについて、その原因を追究するために湖底質と湖水間の放射性セシウム(Cs)の分配係数の測定を実施した。特に分配係数の値に影響を与える種々のパラメーターについて検討を行った。一方、湖水の水深別放射性Csの濃度変化を調査し、湖底堆積物からの放射性Csの再溶出の可否についても検討した。また、採取した赤城大沼湖底堆積物を用いて、ミリQ水と湖水に対する放射性Csの溶出性をバッチ実験により検討した。その結果、溶出率は1%未満であるものの、堆積物の放射性Cs濃度が高いことから溶出液の放射性Cs濃度は0.34~2.96 Bq/Lと高く、夏季の底層水の放射性Cs濃度増加に寄与する可能性が示唆された。湖水中の安定セシウム(Cs-133)濃度を溶存態と懸濁態とで分別定量するにあたり、試料前処理方法ならびに分析条件の検討・最適化を行い、妥当な分析値を得られるに至った。湖底質からのCsの溶出機構解明を目的に赤城大沼から採取した湖底質に安定Csを含む蒸留水、湖水を用いて吸着させた後に蒸留水、湖水、アンモニア水の3種類の各種液体で洗浄後、広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定により湖底質中のCs近傍構造を評価した。放射性Csの湖底質に対する吸着測定を行った。底質中の間隙水に含まれる放射性Csを分析し、季節的な変動を調査した。また、中性子放射化分析法を用い、深さ別の底質中に含まれる安定Csの分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤城大沼湖水中の放射性Cs濃度の下げ止まりについて、その原因を解明するために湖底質と湖水間の放射性Csの分配係数の測定、水深別放射性Csの濃度変化、湖底堆積物を用いたミリQ水と湖水に対する放射性Csの溶出性のバッチ実験、溶存態と懸濁態とで分別定量する為の試料前処理方法ならびに分析条件の検討、EXAFS測定による湖底質中のCs近傍構造の評価に関して順調に進展させることができた。 分配係数の値に影響を与える重要なパラメーターである共存イオン濃度を湖水に合わせた疑似湖水試料を用いて分配実験を実施した。その結果、湧水の結果とほぼ同程度の値が得られ、湧水による分配実験の信頼性が確認された。一方、水温躍層が発達する夏期成層期について水深別放射性Csの濃度変化を調査した。その結果、水深が深くなるにつれて放射性Cs濃度が上昇し、鉛直方向に放射性Csの濃度勾配が形成されることが確認された。湖水中の安定Csついては定量法が確立できたことから、第一段階の目標は当初見込み通りに達成することができた。湖底質中のCs-133近傍構造のEXAFS測定による評価については安定Cs(Cs133)を吸着させた湖底質をアンモニア水で洗浄することによって湖底質と強固に結合していたCs-133が脱離していることを示す結果が得られた。放射性Csの湖底質に対する吸着測定では、30%は吸着率が弱い成分があることが分かった。底質中の間隙水に含まれる放射性Csは季節的な変動見られたが、更なる調査が必要である。また、中性子放射化分析法を用いた深さ別の底質中の安定セシウム分含有量は深さ10mmと160mmで4μg/g程度、深さ390mmで2μg/g程度と若干の違いがあった。初年度の成果としては、各担当がおおむね順調に進展している。今後、各成果を紐づけしながら、課題解決に向けていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
目的達成に向けて、これまでの成果を踏まえた上で、以下に記す各種検討・調査・実験を実施していく。 湖底質と湖水間の放射性Csの分配係数の値そのものはほぼ確定できたと考えられる。今後は、分配係数と実際の底層湖水や間隙水中放射性Cs濃度との関連を検討していく必要がある。水深別放射性Csの濃度調査については、冬期成層期の水深別放射性Csの濃度変化を測定する。これらの調査結果を用いて、湖水の放射性Cs物質収支を再計算し、湖底堆積物からの放射性Csの再溶出を検討する。放射性Csの存在形態と反応機構については吸脱着実験を実施し、検討を進める。合わせて、これに関連した成果をまとめた論文を出版するための執筆作業を進める。これまでに確立した湖水中の安定Cs定量化手法に基づき、赤城大沼湖水中の安定Cs濃度の深度分布および季節変化を明瞭にとらえ、放射性Cs濃度との比較から湖内のCs循環の実際を明らかにしていく。EXAFS測定による湖底質と湖水間のCsの吸着、脱離機構の解明はようやく始まった段階である。EXAFS測定については赤城大沼固有の現象と考えられる放射性Csの吸着・脱着機構について考察するために、さらに安定Cs-133吸着検体の対象を拡張して構造との関連性を検討する。放射性Csの湖底質に対する吸着測定では、吸着率が30%の成分がどのような要素から成るかを検討していく。また、底質中の間隙水に含まれる放射性Csは季節的な変動が見られたが、底質に近い水深16m付近の湖水の濃度との関係を詳細に調査する。さらに、深度別湖水を凍結乾燥した試料を中性子放射化分析法で安定Cs含有量を分析する。このことで安定Csと放射性Csとの関係を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度に前倒し支払請求額を20万円として、年度末の調査と学会発表に使用した。実際には12万円程度の支出となったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額の使用計画は、調査用の旅費(年6回)・宿泊費(2回)と薬品・間隙水抽出用0.45μmろナイジェテストフイルター、乳鉢、ビーカーなどの消耗品等となる。
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