ヨウ化セシウム(CsI)シンチレータに含まれるヨウ素とセシウムの放射化反応を利用して、従来の放射化法よりも高感度・高精度で簡便に熱中性子束を測定する方法を開発することを目的として研究を行った。 令和3年度は、前年度に新たに考案した方法の実証実験を行った。この方法では、熱中性子と熱外中性子のエネルギースペクトルがそれぞれマクスウェル分布と1/E分布で近似できることを利用し、中性子照射によってCsIシンチレータ中に生成するCs-134m及びI-128の飽和放射能から、カドミウムフィルタ法の適用をせずに熱中性子束を求める。 近畿大学原子炉の照射場は典型的な熱中性子炉のスペクトルを持ち、中性子スペクトルがマクスウェル分布と1/E分布の重ね合わせで表せることから、この照射場を用いて照射実験を行った。また、粒子・重イオン輸送計算コードPHITSを用いてシミュレーション計算を行い、CsIシンチレータによる自己遮蔽効果を補正するための自己遮蔽因子を求めた。さらに、Cs-134mから放出されるガンマ線がCsIシンチレータに吸収されて計数される影響をシミュレーション計算によって調査し、これを補正する係数を求めた。 照射実験によって得られた結果を補正して熱中性子束を求めたところ、過去に別の方法による精密測定から得られた結果と一致した。したがって本方法により、短時間の照射及び測定で従来の方法よりも高精度かつ簡便に熱中性子束を求めることができた。 得られた成果は、国内外の学会、研究会等で報告した。
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