研究課題/領域番号 |
18K04999
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
芦川 直子 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (00353441)
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研究分担者 |
鳥養 祐二 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (80313592)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核融合原型炉 / トリチウム除染 / 真空下 / 金属壁 |
研究実績の概要 |
核融合原型炉成立のため、新たな表面トリチウム低減シナリオの構築が急務である。これまでに、原型炉でのトリチウム低減に必要な条件の精査を行い、可能な手法について考察を行った。プラズマ対向面の主な低減対象はタングステンで、温度制御(ベーキング)法、能動的洗浄放電(グロー放電、マイクロ波放電等)法、 ワーキングガスの選択による除染が候補として考えられる。 プラズマ対向面は運転中に350度に保持され、運転停止後に崩壊熱および外部温度制御により材料温度を550度まで上昇させる案がある。温度制御は運転に必須事項であるため、これらをそのままトリチウム低減シナリオにも利用できる。 しかし、評価の観点では、初期温度が常温ではなく350度であること、プラズマ対向壁を含む構造部位全体を巡回する冷却媒体で全体の温度が制御されるため応答時間が緩やかになる(少なくとも数十分の単位)こと、がトリチウム低減シナリオを考える上で重要となる。 特に材料からの水素同位体脱離量の評価には、これまで昇温脱離法が多く用いられ、論文も多い。しかしながら昇温法では脱離のピーク温度は拡散の活性化エネルギーに比例するため、これら条件が変更されると容易に放出温度への違いが生じる。完全な等温法は現在保有する機器では難しく、ステップ昇温法との組み合わせにより原型炉で対象とする温度領域で等温になるような温度管理が重要となる。今年度は原型炉を想定した温度管理に基づく水素脱離実験を重水素プラズマ照射後の試料に対して行い、等温脱離法の有効性について示した。 重水素プラズマへ250度で曝露したタングステン試料に対し、ステップ昇温法で重水素脱離スペクトルを観測した。その結果、従来の昇温脱離法の結果とは異なり、等温条件に到達以降、少なくとも1時間にわたり重水素放出の継続が観測された。実際の装置ではより長い処理時間が必要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真空下でのトリチウム低減法として最も有効と考えられている温度制御による脱離効果において、実験によりその特徴を明らかにした。昇温脱離法と等温脱離(もしくはステップ昇温)法の原理については文献により知られているが、実際の実験結果の多くは昇温法に基づくもので、等温法に関する知見は限られている。2019年度は等温法を使った評価方法を具体的に確立することを目的とした実験を行い、昇温法と比較した際の違いを明らかにするとともに、トリチウム低減に対する評価法としての有益性を明らかにした。さらに、測定対象となる試料条件もこれら実験により決定することが出来た。 関連する議論から、トリチウム低減では温度の予測制御が必要であり、そのために必要となるプラズマ計測機器やロジックの構築について提言した。重水素脱離量の評価については、機器の最適化を行いデータ取得に至った。これらは一部大気吸着の影響が含まれる実験条件が含まれており、真空下での脱離・測定が可能なよう、装置改造も新たに進め、完了した状態である。加えてレーザ系および検出器系の準備も着実に進んだ。このように、真空条件トリチウム低減法の開発に向けて、必要な要素研究を着実にすすめつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの本研究課題で得られた知見を踏まえて、次に述べる3点について進める。 1)温度制御による水素同位体脱離に関し、脱離量と等温に至る温度履歴が脱離量に与える影響について、追加実験により考察を深める。これまでの知見では、構造材の特性変化を抑えるために運転の上限温度550度があり、これ以下の温度領域を対象とすると残留量が生じる可能性がある。ただし、この比率を理解することで、追加で実施可能な能動的洗浄放電(グロー放電、マイクロ波放電等)法、 ワーキングガスの変更に対し、より効果的な組み合わせシナリオの構築が可能と考えている。 2)1で述べた実験において、対象とするタングステンおよび重水素吸蔵(プラズマ照射)試料の条件が整備された。同試料に対し、真空下でのレーザ誘起ブレークダウン分光法を実施し、残留重水素量を真空下で測定する。この際、温度制御に伴い検出される重水素の応答速度が異なる可能性があるため(試料表面からの重水素の検出箇所の違いによる)、その点に留意しながら測定・解析を進める。 3)本研究課題の総括として、真空下でのトリチウム低減の効果についてまとめる。その際、前提条件となる原型炉で制御可能なパラメータについて具体的に言及しつつ、低減法に関する考察を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で該当年度に物品費(試料やレーザ関連の光軸費用)が予定よりも安くなったため。また、3年目(2020年度)に海外での学会発表を計画しており、そのための海外渡航費および学会参加費の確保が必要となった。予算の種別が基金であることを有効活用し、次年度(2020年度)に繰り越すことで国際学会への参加と実験に係る物品費の双方を本科研費から支出可能なよう、計画した。
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