核融合原型炉成立のためには定期メンテナンスを実施するためのプラズマ真空容器大気解放に関する指針作りが重要である。そこで本課題ではプラズマ真空容器内での残留トリチウム低減シナリオ構築に関する研究を実施した。前提として同真空容器が大気曝露される前に可能なトリチウム除染シナリオという条件がある。それゆえ、真空環境下で実施可能であること、対象とする材料がタングステンであること、プラズマおよび中性子照射環境であること、という背景条件に基づき本課題を実施した。前年度までにプラズマ対向壁の運用温度履歴を考慮した等温脱離法でのトリチウム除染評価のため、トリチウム除染に向けた運用シナリオの考察および実験を進めてきた。さらに中性子照射模擬として、鉄イオン照射曝露後のタングステン試料片も用いた。 今年度は、重水素(D)プラズマ照射、フルエンス1E26 D/m2を行ったタングステン試料からの重水素脱離スペクトルについて、鉄イオン照射なし、および鉄イオン照射3dpaで比較した。鉄イオン照射3dpaの試料では、無しに比べてD脱離量が多く、かつ脱離温度領域が広いことが示された。鉄イオン照射3dpaを行ったタングステン試料に対し昇温脱離処理(30K/min)と等温脱離処理(400℃で30分保持)で得られた重水素脱離量の比較では、昇温処理法に比べて等温脱離法の結果は約半分の重水素脱離量が放出するとともに、より高い脱離温度領域へのD脱離ピークの拡張が観測された。 この結果から、原型炉での運用に対し、壁温運用を考慮し等温処理法による残留重水素量評価が重要であることを示した。また現設計での壁温度350℃を想定して実施した400℃の等温処理では、タングステンに含まれる重水素の約半分が脱離することを明らかにした。
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