研究課題/領域番号 |
18K05001
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
熊谷 友多 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (70455294)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射線分解 / 抽出剤 / 直接過程 / 分解生成物 |
研究実績の概要 |
本研究課題では放射性核種の分離に用いられる抽出剤の放射線による分解過程を解明することを目的として、既往研究では十分に検討されてこなかった、抽出剤分子への直接エネルギー付与による分解反応(直接分解過程)を研究する。今年度はhexaoctylnitrilotriacetamide(HONTA)を対象として、ガンマ線照射実験による分解生成物の同定・定量を進めるとともに、パルスラジオリシス法による反応中間体の測定を実施した。また、ラジカル生成物の分析のためESR測定に着手した。分解生成物の同定・定量では、dioctylamine等の主要な分解生成物ついて、標準試料を用いて定量分析を実施した。また他の生成物についても、質量スペクトルから構造を推定した。その結果、直接分解過程においても、生成物の多くはHONTAの構造中央部、金属イオンとの錯形成機能を担う官能基部の結合開裂の結果として生成することが分かった。これは、イオン化・励起を受けたHONTA分子が周囲の別のHONTA分子と反応し、その結果として官能基部が損傷を受けることを示唆する。そこで、パルスラジオリシス法による反応中間体の測定を行った結果、HONTAのみを照射した場合とHONTA/dodecane溶液を照射した場合で、パルス通過直後の光吸収スペクトルは異なるが、反応の進展とともに類似のスペクトルが紫外域に現れることが観測された。定常照射の結果と併せて考えれば、この共通のスペクトルは構造中央の官能基部に損傷を受けたHONTAのラジカル種のものと推察される。これらの結果は、抽出溶媒の分解を考える時、直接分解過程とdodecaneのイオン化・励起による間接分解過程とが、この反応中間体を形成したところで合流することを示唆するものであり、当初の想定よりも格段にシンプルなスキームで放射線分解過程を理解できる可能性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定常照射による生成物の分析、パルスラジオリシス法による反応中間体の測定は当初計画通り順調に進捗している。ラジカル種のESR測定については、低温測定環境の整備に時間を要し、今年度は溶媒として使用しているdodecaneについての測定までとなった。ESR測定については、当初計画にはない項目ではあるが、放射線分解過程を解明するための有力な分析手法であるため、次年度は抽出剤のラジカルについて測定を実施したい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はTODGAについて定常照射実験、パルスラジオリシス実験を進めるとともに、ESRによるラジカル生成物の分析を実施し、成果を取りまとめ、論文として発表することを予定している。ただし、2020年4月現在、COVID-19の蔓延による緊急事態宣言の影響が見通せないため、予定に遅れが出る可能性が高い。ガンマ線照射実験に利用してきた量研機構高崎研が施設共用を停止したが、これについては研究代表者所属が保有するX線照射装置により代替することで、研究の遅延を最小限に留めたい。しかし、研究代表者所属の原子力機構原科研が業務縮小、研究開発業務のための出勤は自粛となっており、この状況が長期化する場合には研究の遅滞なく推進することは困難と思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入時に当初の見積りよりも安価に調達できたため、差額が生じた。 次年度の助成金と併せて、消耗品および旅費として使用する。
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