本研究では、放射性核種の分離に抽出剤の放射線分解を理解するため、生成物分析と反応中間状態の測定により、有機溶媒中でのラジカル反応による分解過程(間接過程)と抽出剤分子が直接放射線によって励起・イオン化される分解過程(直接過程)とを区別して把握することを目的としている。実施期間の最終年度となる本年度は、tetraoctyldiglycolamide (TODGA)の放射線分解について調べ、昨年度までに取得したhexaoctylnitrilotriacetamide(HONTA)に関する結果と比較した。TODGAのガンマ線照射による生成物を分析した結果、HONTAの場合と同様に、放射線による分解には一定の規則性があり、ドデカン溶液中と共通する生成物も観測された。LCMS分析で検出された生成物の構造を推定した結果、生成物の多くは、TODGA基本骨格内の結合開裂を想定することで説明できることが分かった。さらに、TODGAの短パルス電子線照射による反応挙動の時間分解分光測定では、これもHONTAと同様に、照射直後にブロードなスペクトルが観測されるが、2nsという短い時間でスペクトルの形状が変化し、ドデカン溶液中と類似のスペクトルとなった。この観測結果は、直接過程で生じたTODGAのラジカル種や励起状態が、短時間のうちに周囲のTODGA分子の基本骨格部分と反応したこと示唆する。HONTAとTODGAはどちらも錯形成能を持つ基本骨格に対して、有機溶媒への親和性を高めるために炭化水素鎖を修飾した構造を持っており、このような分子設計の抽出剤では同様の反応過程が存在すると推察される。
|