研究課題/領域番号 |
18K05009
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 裕 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80243129)
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研究分担者 |
森戸 春彦 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80463800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電圧誘起ナトリウム集積 / シリコン太陽電池 / メガソーラー |
研究実績の概要 |
リン添加n型シリコン(n-Si)とボロン添加p型シリコン(p-Si)に高温での塑性変形で積層欠陥リボン(部分転位対)を導入し、ナトリウム(Na)フラックス結晶育成法によってNaを添加すると、p-Siのみリボンの幅が広がることを透過電子顕微鏡(TEM)法で確認した。第一原理計算により、1)Naはフェルミレベルに依存せず格子間位置に安定に存在し、その格子間Naの形成エネルギーはp-Siでは低い(導入されやすい)、2)格子間Naは積層欠陥に隣接して存在する場合が最も安定で、その結合エネルギーはフェルミ準位に依存しない、ことを示した。これらの結果より、p-Siには格子間Naが多量に導入でき、それらのNaが積層欠陥と相互作用して結合エネルギーの分だけ積層欠陥エネルギーが下がってリボン幅が広がる、と説明できた(大野、森戸ら:APEX11(2018)061303)。Si中の積層欠陥へのNaの移動・集積の過程はSiの極性やフェルミ準位、小数キャリア密度に依存するという結果は、Naに関連する電圧誘起劣化が生じにくい太陽電池セルを設計する上で非常に重要な知見である。 次に、積層欠陥におけるNaの集積状態を高分解能TEM法および3次元アトムプローブ(APT)法で評価することを試みた。適切な観察方位となるように孤立した部分転位対を内包するTEM・APT試料を作成することは困難であるため、転位が等間隔で配列した小傾角粒界が存在する太陽電池用p-Si(キャスト法で育成)を準備し、Naフラックス結晶育成法によりNaを添加した。粒界の位置をエッチピット法で同定し、室温におけるFIB加工法で転位列を内包するTEM試料を作成したが、転位近傍にNaは検知されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高温での塑性変形による意図的な積層欠陥リボンの導入、Naフラックス結晶育成法による意図的なNaの添加、およびダメージレスかつ加熱の影響のない化学機械研磨法によるTEM試料の作成により、研究目的である、Si中の積層欠陥へのNaの移動・集積の過程におけるSiの極性やフェルミ準位、小数キャリア密度の依存性、を実験・理論の両面から明らかにしたのは大きな進捗である。 しかしながら、原子・電子レベルでの集積機構の解明に必要な、積層欠陥近傍におけるNaの集積状態のTEM・APT法での評価にはまだ成功していない。これまでの実験では、Naの集積量が検知限界以下、あるいはFIB加工中に熱などの影響によりNaが離散した、可能性があるため、実験計画の再考が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗には、積層欠陥近傍でのNaの集積状態の評価が不可欠である。これまでの実験では、Naの集積量が検知限界以下、あるいはFIB加工中に熱などの影響でNaが離散した、可能性がある。そこで、下記の3手法を新たに適用してみる。 1)研究成果に記した積層欠陥リボンの幅の評価に用いたTEM試料は、ダメージレスかつ加熱の影響のない化学機械研磨法で作成した。リボンは直線ではないが、特定の{111}原子面と平行に伝搬しており、その{111}面と平行に研磨することで容易にTEM試料が作成できた。一方で、集積状態の定量評価には積層欠陥面と平行な<110>方向より観察する必要があるため、点欠陥の導入や加熱の影響が無視できないFIB法で試料を作成せざるを得なかった。そこで、熱によるNa移動の影響を減らすため、東北大学金属材料研究所・大洗センターでの共同利用研究として、低温でのFIB加工(Cryo-FIB)法によりTEM・APT試料を作成してみる。 2)現在のNa添加方法では、粒界位置における検知限界(TEM法で0.1at.%、APT法で0.005at.%)以上のNaが添加できているか不明である。そこで、北陸先端大学・大平圭介博士のご協力により、上記の試料にカバーガラスを設置して試料-ガラス表面間に高電圧を印加することで電圧誘起劣化が生じる状態を再現し、Naを添加する実験を試みる。 3)劣化が生じうる実用太陽電池用の多結晶キャストSiウエハを準備して、ウエハに存在する積層欠陥と類似な構造のΣ3{111}粒界を内包する試料を切り出してNa添加実験を行い、TEM法及びAPT法でNaの集積が確認できるかを調べる。
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