多数のシリコン(Si)太陽電池モジュールを直列接続で運用するメガソーラーでは、フレームと太陽電池セル間の電位差によりナトリウム(Na)不純物が積層欠陥などへ移動・集積し、発電効率の低下(PID)が生じると考えられている。この移動・集積機構の解明を目指した。
一番の成果は、Si中の積層欠陥へのNaの移動・集積の過程はSiの極性やフェルミ準位、小数キャリア密度に依存するという、PIDが生じにくい太陽電池セルを設計する上で重要な知見である。塑性変形法でフレッシュな積層欠陥リボンを導入したSi単結晶にフラックス法でNaを添加すると、p型Siのみリボン幅が広がった。第一原理計算より、1)Naはフェルミレベルに依存せず格子間位置に安定に存在し、その格子間Naの形成エネルギーはp型Siで低い、2)格子間Naは積層欠陥に隣接して存在する場合が最安定で、その結合エネルギーはフェルミ準位に依存しない、ことを示した。これより、p型Siには格子間Naが多量に導入でき、そのNaが積層欠陥と相互作用して結合エネルギー分だけ積層欠陥エネルギーが下がるためリボン幅が広がる、と説明された(大野、森戸ら:APEX11(2018)061303)。
フラックス法やPID加速実験で意図的にNaを添加した実用太陽電池用のp型ハイパフォーマンス多結晶SiのSEM観察より、Naは積層欠陥・粒界と優先的に相互作用することが示された。その反応性は粒界エネルギーと相関があり、低エネルギーの∑3粒界や積層欠陥に比べて高エネルギーのランダム粒界や高∑値粒界の反応性が高いことが分かった。この結果もPIDメカニズムを理解するうえで重要な知見である。STEM法および3次元アトムプローブ法により、積層欠陥におけるNaの集積濃度は10ppm(検知限界)より低いとされた。そのため、STEMによるNaの集積過程その場観察は実現できなかった。
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