本研究は、海底鉱物資源の効率的な探査ならびに開発時の環境影響調査に資する“海底下 長期観測システム”の開発と運用手法の構築を目指したものである。具体的には、先行研究で開発を進めてきた現場間隙水採取装置(PileBunker)等の海底下観測機器を改良し、現場で元素濃縮する機能を追加することにより、海底下での流体循環の解明に資する観測システムの構築を目指す。 初年度には、現場間隙水採取装置の送液システムにおける多量採水機能の追加を行ったほか、目的元素の効率的な濃縮・抽出・分析方法を検討するため、10種の固相抽出樹脂に関する基礎検討を実施した。 2年度目に卓上システムによる2種の固相抽出樹脂(NOBIAS CHELATE-PA1(日立ハイテクフィールディング社)およびエムポアディスクカートリッジキレート(スリーエムジャパン社))を選定し、模擬間隙水試料を用いた検証実験を実施した。本検証実験により一般金属元素や希土類元素の濃縮・抽出条件を確立した。 最終年度には、ハウジング化した固相抽出樹脂を用いて現場濃縮・抽出条件に関する検証を実施するとともに、現場間隙水採取装置への換装を行った。 コロナ禍の影響により、深海調査での運用試験を実施することができなかったが、耐圧試験機内での運用試験により各種データの獲得が進んでおり、実環境での運用が可能な状態である。他方で、現状の仕様では数時間から数日程度の観測期間となるため、今後は装置の省電力化と現場元素濃縮機能のハイスループット化に向けたバルブ操作等の機能追加や、他元素・化合物の現場同時計測機能等を実装することで、海底資源の開発時における環境モニタリングや海底下流体循環環境における多次元長期動態解明に資する観測手法を構築することを目指す。
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