2020年度に試作したMIMO型3次元指向性ボアホールレーダでは、アレーアンテナへの給電線を収納する中心導体円柱の上に流れる電流が共振し、アレー信号へ良くない影響を与えていた。2021年度は、これを改善するべくアンテナ設計を再度見直した。中心導体円柱の形状、大きさとフェライト装荷について再考して、深度方向約1mの区間に送受信のダイポール・ループアンテナを全部で12素子を配列したアンテナを試作した。これと同時に、電磁波の伝搬方向2角(方位角と仰角)の同時推定する螺旋配列ダイポールアレーアンテナと水平偏波の伝搬方向2角を推定するループアレーアンテナについても設計・試作した。さらに、地熱探査を念頭に、坑井の中心に貫通するように電力伝送用の導体円柱が存在するダイポール・ループアンテナも設計・試作した。以上のアンテナシステムを用いて、大学構内に造成したフィールド実験で、MIMO型3次元指向性ボアホールレーダの性能評価を実施した。ここでは、垂直導体円柱と斜め導体円柱をターゲットにして、シングルホール計測を行った。実験の結果、昨年度に問題となった中心導体円柱に誘導される電流は問題とならならず、大きく改善されていることを確認した。実験では、導体円柱上の反射点が位置する方向(方位角と仰角)の推定が平均誤差約10°以内で行えていることを確認した。さらに、ターゲットの向きに依存して反射波の偏波状態が変わるが、ダイポールアンテナとループアンテナの受信電圧の振幅比に偏波状態が反映されていることを確認した。電力伝送用の導体円柱が存在する場合でも、送受信アンテナ間の直接結合はレーダ計測に支障がでるほど問題にならないことを確認した。このことから、本研究で目標としていた地熱探査用MIMO型3次元指向性ボアホールレーダの原理確認に坑井内の実験で成功したといえる。
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