研究課題
本研究では,地球表層環境におけるジルコニウムの挙動を評価するためのジルコン・インデックスの開発を目的としている.2019年度より引き続き,高温変成岩(珪長質片麻岩,東南極,エンダービーランド,ナピア岩体の露岩ハーベイ・ヌナタークより採取)中のジルコンについて,さらに解析を進めた.昨年度まで副成分鉱物であるジルコンを中心に分析及び解析を行い,本岩石試料中のジルコンがリチウム(元素記号:Li)に富むことがわかったため,今年度は同一岩石中の石英,斜長石,斜方輝石等の主要鉱物を対象にLi存在度を分析することで,Liに富むジルコンの形成過程の解明を試みた.Li存在度分析はシングルコレクター型高感度高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMP-IIe)で実施した.さらに,同一岩石試料の全岩化学組成分析を合わせて行い,全岩,各主要鉱物(石英,斜長石,斜方輝石)及びジルコンのLi存在度を比較した.その結果,岩石全体及び主要鉱物にはLiの濃集が見られなかった.よって,Liに富んだジルコンは,単純にメルトの化学組成を反映したのではなく,ジルコンにLiを濃集させる機構がはたらくことで形成されたとわかった.本研究成果は,Goldschmidt 2020及び日本地球化学会年会にて報告した.さらに高温変成岩(ガーネットを含む珪質片麻岩,東南極,エンダービーランド,ナピア岩体の露岩ファイフヒルズより採取)中のジルコンを試料として追加し,解析を行った.ジルコンの詳細な観察を行い,それにジルコンの希土類元素存在度の情報をあわせることで信頼性の高い変成年代を得た.また,ジルコンの酸素同位体比はジルコンの観察結果との関連はみられず,一定の値を示した.これは高温変成作用の影響を受けて再度平衡に達したためであると示唆される.本研究成果は国際誌にて報告を行った.
2: おおむね順調に進展している
2020年度はSHRIMPによる同位体比分析手法の適用及び追加データ取得のための分析とその成果報告を中心に活動した.2019年度より研究を行っているナピア岩体に産する高温変成岩について,ジルコンの詳細な観察及び分析を進めると同時に,岩石と主要鉱物も対象に含めることで,ジルコンだけに着目していては得られない情報を取得し,解析を進めた.細粒火成岩からのジルコン回収の効率を改善するために高電圧パルス選択性粉砕装置(Selfrag)で使用するメッシュの改良・放電条件の改良を行った.予定していた野外地質調査等は,新型コロナウイルスによる感染症の拡大状況を考慮し,2020年度中は実施せず,延期した.また,同感染症の拡大防止対策の関連で,実験室での実験や分析に一時制限があったことから,一部の分析の進捗に遅れが見られる.
2020年度は,新型コロナ感染症の拡大防止対策の関連で,実験室での実験や分析に一時制限があったことから,進捗に遅れがみられた分析から進めていく.熱水変質作用を受けたジルコン(アメリカ合衆国ミネソタ州ダルース複合岩体の斜長岩及びガボン共和国オクロ地域北部Bidodouma streamに産する珪長質凝灰岩から抽出)の,SHRIMP-IIeによる微量元素分析を実施する.分析データは,上記の高温変成岩中のジルコンのデータと共に集約する.また,同様の理由で2020年度での実施を中止した西南日本飛騨変成帯(岐阜県)の打保花崗岩体及び周辺地域への野外調査と追加の試料採集を,2021年度の前半に行い,採集試料の解析及び試料調整と分析を進める.また,酸素同位体比分析済みの試料について,MC-ICP-MSによるハフニウム(Hf)同位体比分析を行う.
2020年度に予定していた飛騨変成帯の現地での地質調査及び試料採集は,現地までの移動に公共交通機関を利用することから,新型コロナウイルスによる感染症の感染拡大状況を考慮し,計画を中止した.そのため,調査のための費用分の差額が生じ,そのうちの一部は,論文執筆の際の英文校正費,実験室で利用する消耗品費等に使用した.残額は,2021年度の当該地域の現地地質調査及び試料採集のための費用に使用する予定である.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 9件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 6件)
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