研究課題/領域番号 |
18K05020
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
竹原 真美 国立極地研究所, 極域科学資源センター, 特任助教 (70792448)
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研究分担者 |
福山 繭子 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (40630687)
外田 智千 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (60370095)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジルコン |
研究実績の概要 |
本研究では,地球表層環境におけるジルコニウムの挙動を評価するためのジルコン・インデックスの開発を目的としている.2020年度より引き続き,高温変成岩(珪長質片麻岩,東南極エンダービーランド,ナピア岩体のハーベイ・ヌナターク(HVN)より採取)中のジルコンについて解析を進めた.本岩石試料中のジルコンはリチウム(元素記号:Li)に極端に富むが,岩石全体及び主要鉱物(石英,長石類,輝石類など)にはLiの濃集が見られないことが判明し,ジルコンの高Li含有量は単純にメルトの化学組成を反映したのではなく,ジルコンへのLi濃集機構の存在を示唆している.そこで,当該ジルコンの形成メカニズムを精査するために,ジルコンの高精度Li同位体分析と微量元素であるNb,Ybの含有量の解析を通して,ジルコンの形成環境の絞り込みを試みた.その結果に基づき,ジルコンを含む岩石の原岩のマグマの形成場が大陸弧起源であることが推定された.このことから,HVNの珪長質片麻岩の原岩はプレートの沈み込みに伴う地下深部での海水と堆積物の相互作用の結果としてLiを選択的に取り込んでいた可能性を示した.また,より多角的な解析を行うために,ジルコン中の微量元素Taの含有量の分析手法の開発を行った. 2020年度に高温変成岩(ガーネットを含む珪質片麻岩,東南極ナピア岩体のファイフヒルズより採取)中のジルコンを対象として,カソードルミネッセンス像観察と希土類元素存在度をジルコンのU-Pb年代と組み合わせ,ナピア岩体において生じた高温変成作用の年代の制約を行ったが,本件について2021年度日本地球惑星科学連合大会及びGoldschmidt2021にて報告した. 西南日本飛騨変成帯の打保花崗岩体から採集した試料について,結晶分化作用における重元素同位体の挙動を検証するために,MC-ICP-MSによるハフニウム同位体比分析を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はSHRIMP同位体比分析手法の開発及び適用,学会での成果報告や議論を中心に活動した.2019年度より研究を行っているナピア岩体に産する高温変成岩について,ジルコンの詳細な解析を進め,Li濃集機構やジルコンの形成環境について,より議論を深めることができた.また,ジルコン中の微量元素について,測定対象元素を拡張するため磁場領域の設定やスリット開口幅の最適化等のSHRIMP分析手法の開発を行い,分析のルーチン化を行った.NbやTa,Li同位体比といった元素が新たなジルコン・インデックスとしの有用性を検証することが可能となった. これまでに採取した西南日本飛騨変成帯(岐阜県)の打保花崗岩体及び周辺地域の試料について,U-Pb年代解析及び分析のための試料調整を進めた.酸素同位体比分析や,MC-ICP-MSによるハフニウム(Hf)同位体比分析を実施する準備が整った. 予定していた野外地質調査等は,新型コロナウイルスによる感染症の拡大状況を考慮し,2021年度中は実施せず,延期したため,本課題を遂行するための野外調査と分析試料採取に遅れが生じている.また,同感染症の拡大防止対策の関連で,実験室での実験や分析に一時制限があったことから,一部の分析の進捗に遅れが見られる.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,新型コロナ感染症の拡大防止対策のため,野外調査の延期や実験室での実験や分析に一時制限があったことから,一部作業の進捗に遅れがみられた.当該作業について,自動分析・遠隔分析を利用することで作業を加速する. ジルコン・インデックスとなる各元素について,共生鉱物との元素分配を検証するために,岩石薄片からジルコンを含む部位を2mm径で切断する手法を開発する.切断試料について当該元素の分配状態を検証し,ジルコン・インデックスとしての有効性を確定する. 熱水変質作用を受けたジルコンについてSHRIMP-IIeによる微量元素分析と顕微ラマン分光器による結晶度解析を実施する.対象とする鉱物試料は,天然環境における熱水変質作用の痕跡のある試料及び実験室での化学処理を経た試料の両方を用意しており,試料調製及び詳細な観察の後に分析を実施する.分析については5~10マイクロメートル厚で研磨と分析を繰り返すことで,微量元素の存在度は3次元的に捉え,元素分配の素過程の解明を目指す.分析データは,上記の高温変成岩中のジルコンのデータと共に集約する. 2020年度での実施を中止した西南日本飛騨変成帯(岐阜県)の打保花崗岩体及び周辺地域への野外調査と追加の試料採集を,2022年度の8月または9月に行う予定である.その後,採集試料の解析及び試料調整と分析を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に予定していた飛騨変成帯の現地での地質調査及び試料採集は,現地までの移動に公共交通機関を利用すること及び現地での宿泊の必要性がある.そのため,新型コロナウイルスによる感染症の拡大状況等を考慮し,感染拡大状況が落ち着きを見せるまで計画を延期することにした. 結果として,調査のための費用分の差額が生じた.そのうちの一部は,実験室で利用する消耗品等に使用した.残額は,2022年度の当該地域の現地地質調査及び試料採集のための費用に使用する予定である.
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