• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2018 年度 実施状況報告書

回折実験のみに基づく超臨界溶液系のゆらぎ構造の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18K05023
研究機関千葉大学

研究代表者

森田 剛  千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80332633)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワードゆらぎ / 超臨界水溶液 / 小角散乱 / 高エネルギーX線
研究実績の概要

「ゆらぎ」は複雑系の構造や物性を議論する上で重要な概念である. 超臨界状態は典型的な複雑凝縮系であり, そのゆらぎ構造の解明は重要な研究課題と位置付けられる. BathiaとThorntonは, 数密度ゆらぎと濃度ゆらぎが回折理論と熱力学的パラメータから得られることを示し, このBathia-Thornton理論は, 合金系から分子性液体までの様々な二成分凝縮系に対する研究に広く用いられている. 一方で, ゆらぎが極めて顕在化する超臨界状態において, Bathia-Thornton理論を適応した場合, (1) 定義上有り得ない負値の濃度ゆらぎが精確な解析結果として与えられること, (2) X線に対する散乱体積と熱力学的体積の不整合から, 濃度ゆらぎの解析値が発散すること, の二点の異常な振る舞いを我々は確認している. 以上から, 異常分散効果を利用した3種の散乱実験を実施し, 回折実験のみから濃度ゆらぎを算出する取り組みを進めている. 本年度研究では, キセノン(Xe)-クリプトン(Kr)混合系の超臨界状態を測定対象とした異常小角散乱実験 (A-SAXS) を実施するとともに, 特に, XeのK吸収端近傍の異常分散効果を利用するため, SPring-8で得られる特殊高エネルギーX線源を利用した高エネルギーA-SAXS測定を行うことで, 回折実験のみから超臨界混合系の濃度ゆらぎを算出しその精度や再現性について検討を行った. さらに, 測定の妥当性についてゆらぎの度合いを示す指標である相関距離の圧力依存性に基づいて検討した結果, 単成分系と混合系ともに精確に測定が実施できていることが示された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

前述の通り, エネルギーを変化させたX線源による異常分散効果は, 順調に実験が進められているが, 高エネルギー域の測定で吸収測定や散乱測定に不確定要素が含まれていることがわかり, 現在, この改善についてどのように行っていくか指針を模索している. さらに, 中性子散乱によるコントラスト変調実験については, 高温高圧試料ホルダーなどの装置系の設計段階にとどまっており実際に実験を実施できる段階まで時間を要すると考えられる. 一方で, 高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factoryでの実験では, H31年度以降2年間の課題申請をBL-15A2での実験課題として採択頂けるなど, 科研費の研究期間において順調に進められる予定が立っている. また, エネルギーを変化させた実験技術やノウハウが徐々に蓄積されてきており, また, ビームラインでもエネルギー変化に伴うビームの安定性の大幅な向上をはかってくださった. X線実験的には順調に進捗している. このため, やや遅れていると評価する.

今後の研究の推進方策

回折法のみで濃度ゆらぎを解析した場合, 混合系の臨界密度付近で極大を持つ密度依存性となった. X線エネルギーを8.27 keVで小角散乱強度を測定し熱力学パラメータと組み合わせ解析した場合,理想混合状態とほぼ同程度か若干低くなる解析結果を得ていた. 線源エネルギーに起因しXeからの蛍光の影響が散乱測定に生じていることも考えらるが, 相関距離の圧力依存性を基準にした場合, 相関距離は臨界圧力付近で極大を取り, neatな超臨界Xe系より大きな値を示していることから, 本手法で得られた極大を持つ密度依存性が妥当な結果と判断されている. さらにその妥当性について, 現在3種のX線エネルギーを用いて, つまり, ゆらぎの解析上必要最小限のエネルギー可変で実験解析を進めているが, より精確な結果を得るためエネルギー設定値を増加させ, 例えば, 5種のX線プローブを用いるなどの改善を行う予定である. また, 得られた各種ゆらぎのパラメータを元にして算出されるKirkwood-Buff積分などによる構造情報について, より詳細なゆらぎ構造の議論へとつなげることと, 解析結果の妥当性について検討指針とする予定である. 中性子散乱については, 常温常圧条件下での実験から開始ることとし, 高温高圧セルの設計や構築, 実際の実験実施の実現に向けて一つ一つ課題をクリアし最終的に実現へと結びつけられるよう進めていく計画である.

次年度使用額が生じた理由

ほぼ当初計画通りの執行額となったが、謝金経費と旅費経費の支出にともない次年度使用額が生じた。次年度における測定セルの改善や状態維持等の特に散乱実験の推進に対する経費として執行させて頂く予定である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件)

  • [雑誌論文] Fluctuations and Mixing State of an Aqueous Solution of the Ionic Liquid Tetrabutylphosphonium Trifluoroacetate around the Critical Point2019

    • 著者名/発表者名
      Nitta Ayako、Morita Takeshi、Ohno Hiroyuki、Nishikawa Keiko
    • 雑誌名

      Australian Journal of Chemistry

      巻: 72 ページ: 93~93

    • DOI

      10.1071/CH18380

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Determination of Hansen Solubility Parameters of Asphaltene Model Compounds2018

    • 著者名/発表者名
      Morimoto Masato、Fukatsu Naoya、Tanaka Ryuzo、Takanohashi Toshimasa、Kumagai Haruo、Morita Takeshi、Tykwinski Rik R.、Scott David E.、Stryker Jeffery M.、Gray Murray R.、Sato Takashi、Yamamoto Hideki
    • 雑誌名

      Energy & Fuels

      巻: 32 ページ: 11296~11303

    • DOI

      10.1021/acs.energyfuels.8b02661

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Reduction in mesoscopic structural fluctuations of liquid water induced by the large amphiphilicity of ionic liquid cations2018

    • 著者名/発表者名
      Morita Takeshi、Yonenaga Kazuki、Nitta Ayako、Shibuta Satoshi、Nishikawa Keiko
    • 雑誌名

      Journal of Molecular Liquids

      巻: 272 ページ: 425~429

    • DOI

      10.1016/j.molliq.2018.09.100

    • 査読あり
  • [学会発表] Effects of Ionic Liquid Cations on Molecular Organization of Water Using Small-Angle X-ray Scattering2018

    • 著者名/発表者名
      T. Morita, K. Yonenaga, H. Iwai, Y. Koga, and K. Nishikawa
    • 学会等名
      The 6th Asian-Pacific Conference on Ionic Liquids & Green Processes (APCIL-6)
    • 国際学会
  • [学会発表] 異常小角X線散乱によるキセノン-クリプトン超臨界混合系のゆらぎ構造2018

    • 著者名/発表者名
      森田 剛, 田中 良忠, 西川 恵子
    • 学会等名
      第12回分子科学討論会
  • [学会発表] 極小角および小角散乱によるアスファルテン凝集体中の異なる相互作用様態の評価2018

    • 著者名/発表者名
      森田 剛, 森本正人, 山本秀樹, 田中隆三
    • 学会等名
      第48回石油・石油化学討論会
  • [学会発表] Interaction Potential Surface between Biological Sensing Nanoparticles2018

    • 著者名/発表者名
      Takeshi MORITA
    • 学会等名
      1st International Symposium of Soft Molecular Activation Research Center (SMARC)
    • 国際学会
  • [学会発表] Asphaltene Aggregates in Solutions Both Using Small-Angle and Ultra-Small-Angle X-ray Scattering: the Solvent Effect of Toluene, Pentane, and Bromobenzene2018

    • 著者名/発表者名
      T. Morita, S. Suzuki, T. Suzuki, M. Morimoto, and R. Tanaka
    • 学会等名
      PetroPhase 2018
    • 国際学会

URL: 

公開日: 2019-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi