研究課題/領域番号 |
18K05023
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
森田 剛 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80332633)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゆらぎ / 超臨界流体 / 異常分散 / 小角散乱 / キセノン / クリプトン / 超臨界水溶液 |
研究実績の概要 |
異常分散小角散乱測定を行うための超臨界高圧セルについて、試料長を安定させるための改善を施した。高圧シールが安定し、放射光施設での測定を安定して行えるようになったことと、高圧域から常圧付近までを一定の試料長で露光できるようになったことから、従来、neatな系の散乱強度と等温圧縮率により行われていた散乱強度の絶対強度化について、理想状態を用いた規格化が可能になり、ゆらぎの測定解析上極めて重要な散乱強度の絶対値化を、精度良く行える手法を確立した。異常分散小角散乱測定は、高エネルギー加速器研究機構の放射光共同利用実験施設Photon FactoryのBL-15A2で実施しているが、キセノンークリプトン系の測定において、例えば、クリプトンのK吸収端の決定に際し、ビームラインのエネルギー変換時におけるビーム位置が極めて安定するよう改良を頂いたため、エネルギースキャンを高精度に行える手法も確立できた。さらに、従来、測定方法としてエネルギーを固定して一連の超臨界状態の圧力依存性の測定を行った後、異常分散測定のためエネルギーを変え、再度、圧力を変えて測定する手法を採用していたが、BL-15A2の検出器制御プログラムのバージョンアップと光学系を進化させて頂いたお陰で、簡便に一状態の測定をエネルギーを変えながら測定することが高精度で可能となった。以上から、キセノンークリプトン系の異常分散測定による回折データのみに基づくゆらぎの解析手法は、理論と実験技術ともに確立できた。さらに、超臨界水溶液の中性子散乱測定に用いる高温高圧チタン合金製試料ホルダーの開発の最終段階も行い、中性子実験施設J-PARCでの実験実施への準備も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon FactoryのBL-15A2での異常分散小角散乱測定は、高圧試料ホルダーの改良の成功とビームラインの大幅な性能アップで実験技術的に高いレベルで確立がされた。その他、小角散乱強度の絶対強度化について新しい方法論を確立でき、それにより、最終的に求められるゆらぎの数値の精度が大幅に向上した。一方、超臨界水溶液の中性子散乱実験によるコントラスト変調法基づいた研究については、試料ホルダーの開発は順調に進んだが、中性子散乱施設での当該年度での実験実施には至らなかった。以上のため、おおむね順調に進展している、と考える。
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今後の研究の推進方策 |
キセノンークリプトン系の異常分散小角散乱測定によるゆらぎ構造の解析について、混合状態の不均一性を表す濃度ゆらぎの解析をさらに発展させ、算出された密度ゆらぎやゆらぎの相関項から二体分布関数のゆらぎに基づいたKirkwood-Buff積分を求めキセノンとクリプトン元素間の引力的斥力的相互作用についての詳細な議論を目指す。さらに、各成分の密度ゆらぎを算出する。以上のデータは、異常分散効果に基づく本研究課題により求められる値であるが、従来の液体状態に適用されてきた熱力学量を組み合わせる手法で算出された解析データとの比較も進める。超臨界水溶液の中性子散乱測定によるコントラスト変調の測定は、チタン合金性高温高圧試料ホルダーの開発はほぼ終えていることから、昨年度に引き続き、中性子散乱施設への課題申請を行い、実験実施の実現を目指す。超臨界水溶液の実験においては、高温高圧時の溶液の状態をビデオカメラ等を用いて直接観察することで、系の理解を深める試みを続けているが、今年度は、窓部の開放径をより大きくした装置を自作し、従来適応されてきたゆらぎを算出する理論と実際の状態との不整合について、より詳細な観察実験も実施する。以上から、単成分系ですでに極めて大きなゆらぎを有する超臨界状態中で、混合された溶質成分がどのような分子分布特性を示すか、詳細な解明を目指す。
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