研究課題/領域番号 |
18K05025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 雄史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (50615622)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 機械学習 / 古典力学 / データベース |
研究実績の概要 |
画像認識の能力は人間の精度を上回り、チェスや囲碁も人間のチャンピオンに勝つ人工知能が登場するなど、近年の機械学習法の発展は目覚ましい。本研究では、こうした技術の分子科学への導入によって、タンパク質間に見られる重要なダイナミクス現象を解き明かしていくことを目指している。これまでの研究で、基本的な機械学習プログラムとデータベースのプロトタイプを作り、2次元ハミルトン系ダイナミクスの学習データベースを用いて、カオス性予測に取り組んだ。このテストにおいては9割程度の正答率まで上げることができるようになった。昨年度より、タンパク質間相互作用でも重要なイオン結合の振る舞いとして、NaイオンとClイオンの会合・解離の予測をする機械学習に取り組んできた。昨年度は、NaCl水溶液系のMDシミュレーションに基づきデータベースの構築をおこなった。 今年度は、NaCl水溶液系の機械学習の効率は、自由度が大きくなるため2次元モデル系の場合と比べると成功率が上がらなかったが、次元の問題が大きいと考えられる。直接、カーテシアン座標を使うのではなく、内部座標を使って簡略化していくことが有効な方法の1つであると考えられる。前年度に開発したデータベースを改良しつつ、機械学習の手法の改良をおこなった。結果、機械学習モデルの予測の正解率を高めることに成功している。また、時系列解析の観点から、タンパク質のダイナミクスの変化を検知する機械学習の手法の検討もおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に作成したデータベースを改良しつつ、水中におけるNaClの会合/解離の反応を予測する機械学習法を開発してきた。NaClの原子間距離のみを用いて会合/解離を予測したが、正答率は55%程度にとどまった。これは、サンプリングした構造が解離反応の鞍点付近に限定したためであるが、この低さは過去の文献において物理化学的に解析された結果と矛盾しないものである。また、周囲の水分子の効果を学習に取り込むと75%程度まで正答率が上昇した。これも過去の研究で言われていることと矛盾しない結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに構築したデータベースやプログラムを活用することにより。水中の粒子の会合・解離の機械学習をおこなう基本的なノウハウは目処がたった。今後はさらに予測の正答率を上げる方法を考案していく。今の所、インプットできる自由度に限界があることが正答率を下げている原因だと考えている。そこで、自由度をあげて機械学習することを可能にするために、大型計算機を利用していく。また、タンパク質界面への具体的な応用を実施し、これまで構築した手法が有効であることを示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、出張を控えることにした。また、研究を次年度に延長し、さらに研究成果を充実させることにしている。これに合わせて、未使用の研究費は来年度の研究支援員の雇用に当てる。また、今年度に購入できなかった物品の購入も次年度におこない、研究を進める。
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