研究課題/領域番号 |
18K05026
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
赤井 伸行 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50452008)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 可視光反応 / オゾン‐分子錯体構造 / マトリックス単離分光法 / 新規化合物 |
研究実績の概要 |
オゾンと分子の錯体で可視光吸収が観測できるのか?さらに、吸収の現れた可視光吸収バンドに対応する光を照射した場合に,錯体における光反応が進行するのか?を様々な分子を用いて実験研究を行った。また、光反応生成物の同定を行い、光反応機構の検討を行った。 実験はオゾン‐分子錯体を長時間安定に保持するために低温貴ガスマトリックス単離法を用いて、紫外可視分光法で吸収バンドの確認、赤外スペクトルを用いて生成物の同定を行った。 今年度は特にオゾン‐トリメチルアミン錯体、オゾンーチアゾリジン錯体について注目すべき結果が得られた。本研究の困難さの一つにオゾン分子の理論計算の難しさがあったが、三重項酸素(3P状態)がトリメチルアミンに衝突する高精度理論研究が発表(Li et al. Nat. Chem. 2019)されたことにより、オゾンートリメチルアミンから生成するトリメチルアミン‐N-オキシドの生成機構はオゾンから発生した三重項酸素(3P状態)がトリメチルアミンに付加した後、項間交差によって生成することを明らかにすることができた。 また、オゾン‐チアゾリジン錯体のからは錯体の構造はオゾンがチアゾリジン環にある窒素あるいは硫黄と相互作用した2種類あることが予想されたが、光反応生成物はチアゾリジン‐S-オキシドのみであることが判明した。この反応機構をオゾンートリメチルアミンの理論計算を参考にして実際に理論計算を用いて検討したところ、チアゾリジン‐N-オキシドにくらべチアゾリジン‐S-オキシドの安定性が高く、異性化障壁との関係からチアゾリジン‐S-オキシドしかできない機構を説明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通りに初年度に購入したモノクロメーターを用いた励起波長を制限した実験を行った。また、今年度は高レベル理論計算を行うために計算用コンピュータを導入し、今までの計算機では不可能だった高レベル理論計算が可能になった。 以前の研究結果から明らかになっていたオゾン‐ジメチルスルフィドだけでなく、昨年度のジメチルアミン、トリメチルアミン、モノメチルアミン、チアゾリジンでも強い可視光吸収および可視光反応が生じることを確認することができ、その一部はすでに国内学会で発表することができた。特に、前述のオゾン-トリメチルアミン錯体では精密に光照射を行った結果、複数の光反応生成物を照射波長に依存した形で得ることができた。この実験結果が得られたことで、前述の高精度理論計算との比較が可能となり、反応機構を特定することができたと考えている。 オゾン‐チアゾリジンの研究では光吸収波長の異なる錯体構造が2つあることが明らかになり、いままでは全く分からなかったオゾンと分子の相互作用形態を明らかにする手掛かりが得られた。 論文化に関してはオゾン‐トリメチルアミンの研究結果を国際誌に投稿したところ、査読者から高い評価を受けたのだが、さらに良い論文にするため同位体(18O3)の追加実験を求められた。現在のオゾン製造機ではオゾン生成に大量の酸素を必要としており、高価な同位体酸素を用いた実験をそのまま用いることは経済的に不可能であり、現在対処法を検討している。 オゾンとの分子間光反応が見られなかった分子も複数あり、それらの分子に関しては単分子の光反応機構を研究して、これまでに報告のない分子を始めて生成・検出することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究最終年度であり、昨年度までの研究で見出したオゾン-チアゾリジン,オゾン‐モノメチルアミンの研究成果を専門誌に投稿発表する予定である。また、前述の通り、同位体の実験が求められており、効率の良いオゾン生成法を確立・検証実験を行ってオゾン‐トリメチルアミンの成果を公開したい。また、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンと系統的な実験を行った成果として、メチル基の数で錯体の吸収バンドと反応開始波長が明確に異なることが分かった。メチル基の数の影響が予想を大幅に超えて現れたため、この原因について高精度理論計算を用いて明らかにする予定である。また、これまでのトライアンドエラーでオゾンと可視光反応する錯体を作る分子を探してきた結果、反応しない分子に関しての情報も集まりつつある。そこで、最終的にはオゾンと反応する分子、反応しない分子を明確に区物し、オゾン光反応を用いた酸素付加反応への明確な辻道を構築したいと考えている。 いままではオゾン‐分子錯体の安定保持を優先して極低温ネオン固体やアルゴン固体中に錯体を捕捉した実験を行ってきた。反応性はネオン中とアルゴン中でさえ差が確認でき、周囲の環境によって影響を受けやすい反応系であることがわかりつつある。そこで、今後の系の展開を目指して、氷中でオゾン‐分子錯体を補足できるのかを試みる予定である。
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