本研究では、申請者が開発してきた水素原子核の量子揺らぎを直接取り込んだ量子多成分系理論による化学反応解析法(量子多成分CI-NEB法)を深化し、生体分子中の化学反応までをターゲットにできる新しい量子多成分系理論の開発を目的としている。具体的には、(1A)遷移状態構造を効率的に求めるための拡張および(1B)効率良く反応経路全体を求めるための拡張により、量子多成分系CI-NEB法の高速化を達成する。さらに量子多成分系ONIOM法を実装し、(1C)生体分子を効率良く取り扱うための拡張を行う。開発した量子多成分系理論により、(2A)モデルDNA塩基対中の多重プロトン移動班のの解析、(2B)タキソール分子中の多段階プロトン移動反応の解析および(2C)緑色蛍光タンパク質内のプロトン移動反応の解析を初めて実現する。 R2年度は、主に、R1年度までに開発した手法を用い、(2C)緑色蛍光タンパク質内のプロトン移動反応の解析に取り組んだ。一般な理論計算では、系に含まれる原子数が増えるにつれ、指数関数的に計算時間が増大する。そのためタンパク質のような大きな分子を高精度な量子化学計算により何の工夫もなしに取り扱うことはほぼ不可能である。本研究では、複数の精度の計算手法を組み合わせることで、反応解析の精度を落とさずに計算時間を短縮可能なONIOM法を量子多成分系CI-NEB法に応用した量子多成分ONIOM-CI-NEB法を開発し、これまで困難であった水素原子核の量子効果を考慮した生体分子中の化学反応解析の実現に取り組んだ。
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