研究課題/領域番号 |
18K05029
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 剛昭 静岡大学, 理学部, 准教授 (30360051)
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研究分担者 |
井口 佳哉 広島大学, 理学研究科, 准教授 (30311187)
森田 成昭 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (20388739)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二次元相関分光法 / 赤外キャビティリングダウン分光法 / 真空紫外光イオン化質量分析 / 分子クラスター / 質量選別絶対吸収断面積測定 |
研究実績の概要 |
・光イオン化飛行時間型質量分析真空チャンバーの移設と付設装置の点検作業を行った。当初の研究計画(2018年4月時点)では、現有のクラスター生成真空槽を骨格として差動排気型のチャンバーを設計・製作する予定であった。ところが、2018年5月に分子科学研究所の機器センターより上記真空チャンバーの譲渡が打診され、これを受け入れて翌6月に本学へ移設した。不足している装置(真空計測系、検出系、電源など)の購入手続きを行うとともに、付設の電極類、真空ポンプ類、クラスター生成源などの動作確認を行った。 ・超音速ジェット中に生成するピロールクラスターの二次元相関赤外分光を行った。クラスター生成条件をパラメータとしてNH伸縮振動の強度変化を観測し、ヒルベルト変換に基づく二次元相関解析を行うことで、異なるクラスター種に由来するバンドを分離した。数多くのクラスター種が混在する赤外スペクトルを、観測者の任意性を排除して精密に解析できることを示した。(論文投稿中) ・ピロール2量体カチオンの赤外光解離分光を行い、NH伸縮振動の観測による電荷共鳴相互作用の研究を行った。ピロールへの置換基導入や溶媒和により2量体の対称性を低下させると、二つのπ平面に挟まれた正電荷分布の偏りが誘起され、それがNH伸縮振動数のシフトとして見出された。π電子系の電荷共鳴相互作用を実験的に高分解能で解明できることを示した。(論文受理済) ・アリルアルコール2量体のOH伸縮振動を赤外分光で観測した。実測と理論の比較により、最安定構造はOH-OとOH-πの二つの水素結合による環状型であることがわかった。同炭素数の1-プロパノール2量体よりも結合エネルギーが5kJ/molだけ大きく、2量体のような微視的分子集団では、凝集系で両者が同じ沸点であることを説明することができないことを示した。(論文執筆中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・研究実績の概要でも記したように、2018年6月に光イオン化飛行時間型質量分析真空チャンバーを分子科学研究所の機器センターより移設した。これにより、質量分析真空装置の改良開発のための期間と予算を省くことができた。しかし当初の研究計画では、真空紫外光イオン化によりクラスターの質量スペクトルを測定することが目標であったが、真空装置の立ち上げ、昨年度に移設したYAGレーザーの立ち上げと第4高調波発生、真空紫外光発生のための希ガスセルの装着作業を年度内に行うことができず、進捗状況はやや遅れていると言わざるを得ない。 ・上記の真空チャンバー移設により装置開発のための予算が省かれたので、余剰分をもって液体窒素冷却型の赤外線検出器の購入に充てた。本研究課題の中心となる赤外キャビティリングダウン分光を高感度なものとするには、低ノイズで赤外光を検出する必要がある。従来品と比較して、新規のものは検出窓サイズが直径1/5だけ減少しており、その結果として約1/10倍にノイズが抑えられ、赤外スペクトルのS/Nは約3~5倍も向上した。今後、微弱光吸収のクラスターにも十分適応できるものと期待される。 ・本研究課題で取り扱うアセチレン巨大クラスターについて、1000量体のナノサイズクラスターは斜方晶類似構造であることが先行研究で解明された。今年度は、より小さいサブナノサイズクラスターについて二次元相関赤外分光を行った。その結果、クラスターサイズの増加とCH伸縮振動数の低波数シフトがよい相関を示すことがわかった。密度汎関数理論により斜方晶微視的クラスターの振動数を計算すると、実測の様子を大まかに再現できた。しかし、ここでは計算機容量が十分でないため40量体が上限であった。詳細な構造解明のためには外部機関のマシンを使用するなどして100量体ほどの計算を行うことが必要不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
・光イオン化飛行時間型質量分析真空チャンバーとYAGレーザーの第4高調波を用いたベンゼンクラスターの質量スペクトルの測定を第1目標とする。昨年度に譲り受けた真空装置の性能を確認するために、改良などは一切せずに従来通りに組み上げる。超音速ジェット法により生成される分子クラスターの光イオン化とその検出が本装置で問題なく行えるか否かを確認するために、YAGレーザーの第4高調波である266nmによりベンゼンクラスターをイオン化し、飛行時間型質量分析部の電極電圧やパルス遅延などの最適化を2019年12月までに行う。それに先駆けて、YAGレーザーの立ち上げと光学系調整を2019年7月までに終える。 ・118nmの真空紫外(VUV)レーザーを発生させるための装置改良を行い、このVUVレーザーを用いた質量スペクトルの測定を第2目標とする。VUVを発生させるための希ガスセルは既に所有しているため、これを上記の真空装置に装着するための部品を設計製作する。YAGレーザーの第3高調波である355nmの出力とセル内のAr/Xe分圧比をパラメータとし、アンモニア分子およびクラスターのイオン信号強度をプローブとしてVUV発生を最適化する。これを2020年3月までに終える。 ・分子クラスターの質量分析と並行させて、巨大溶媒和クラスターの二次元相関赤外分光の研究を進める。ピロール-アセトン2成分クラスターの溶媒和サイズを増加させながらNH伸縮振動を観測し、振動バンドの強度変化を二次元相関スペクトルで解析することで複雑なスペクトルの分離を行う。密度汎関数理論との融合により、第2溶媒和圏を含めた溶媒和構造を詳細に解明し、2~3分子による小クラスターともマクロな凝集系とも異なる特異な分子間相互作用の発見を目指す。今年度中の論文受理が目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、初年度にYAGレーザー用結晶ユニットを80万円で購入する予定であったが、これの一部を他研究機関から譲り受けたため金額が半減した。さらに、真空装置の改良費用として見込んでいた予算が、他研究機関から装置を譲り受けたために移設費用のみとなった。以上より、次年度使用額が生じた。 翌年度は、この余剰分を真空紫外発生装置の開発費用として使用する予定である。
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