光励起三重項状態の電子スピン偏極はボルツマン分布によらないため、低磁場、比較的高温で核スピンの偏極を飛躍的に増大できる。一方、偏極源となる分子による制約があるためNMRやMRIへの汎用的な応用に向けて偏極源となる分子の探索が必要である。また電子スピン偏極が静磁場の方向に依存しているため、得られる核スピン偏極が小さくなってしまうという問題がある。 本年度は偏極源となる分子としてローズベンガルを採用し、エタノール、グリセロールと水の混和物を溶媒として用いて実験を行った。液体窒素ガスで冷却し、電子スピン共鳴を行ったが、パルス法、CW法どちらを用いても信号が得られなかった。パルス法では観測までの長いデッドタイムのために観測が困難であったと考えられる。また低温下での静磁場強度を測定に適したサンプル、装置が必要であることがわかった。より高い核スピン偏極を得るために、これまでとは異なる偏極移動シーケンスの実験を行った。その実験では安息香酸にペンタセンをドープしたサンプルを用いて13Cスピン信号を観測した。緩和時間が長い13Cスピンに直接、電子スピンから偏極を移す実験を行い、0.12%の13Cスピン偏極を得た。また1Hスピン偏極を13Cスピンへ偏極を移す交差偏極を複数回行う実験を行った。その結果、分子に含まれる13Cスピン数が少ない場合は効果が少ないが、13Cスピン数が増えるにつれて単一の交差偏極で得られるより大きな13Cスピン偏極が得られた。
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