研究課題/領域番号 |
18K05036
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 晴之 九州大学, 理学研究院, 教授 (90251363)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 理論化学 / 溶液内擬縮退系 / 多配置電子状態理論 / 相対論的電子状態理論 / 積分方程式理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての多配置型電子状態理論、および、溶液内あるいは生体内などの環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液積分方程式理論の手法をあわせ開発し、従来の手法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、2成分相対論手法の二電子反発演算子の表式、共溶媒によって誘起されるタンパク質の大規模な構造変化のための計算手法、等の成果を出版するとともに、方法論の開発として、多参照摂動論GMC-QDPTの近似手法の系統的誤差評価、単純液体における不均一系積分方程式理論を用いた気液界面溶媒和理論の構築を、また、これまでに開発した手法を基に、(1)励起状態プロトン移動における溶媒効果の研究、(2)ネオニコチノイド系化合物の水和安定性の解明、(3)巨大π電子系環拡張ポルフィリンの電子構造の研究、等を行った。 (1)では、Coumarin183を題材に、水溶液中の基底・励起状態でのプロトン移動反応における溶媒効果と、これらの反応に対する塩効果について検討した。自由エネルギー解析から、基底状態よりも励起状態の方がプロトン移動が容易であること、励起に伴い溶媒による安定化が大きくなること、分子内電荷移動による電子状態の変化、等を明らかにした。(2)では、ネオニコチノイド系化合物35種を対象に、水溶媒中およびオクタノール溶媒中での構造と水和安定性を検討した。その結果、排除体積項の自由 エネルギー差が安定性に大きく寄与していることを明らかにした。(3)では、環拡張porphyrinの分子構造、電子構造および吸収特性について検討した。その結果、電子系の安定性、励起スペクトルは、環状のモデル共役炭化水素のものと類似しており、その性質の多くは大環状π電子系に共通の性質として理解できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶液内擬縮退系の電子状態理論、溶質分子の構造揺らぎ・電子状態変化に対する溶媒緩和の理論、いずれの項目においても予定した手法の開発を当該年度中に行うことができ、また、これらを適用して、種々の溶液内化学現象を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに進めた多配置型波動関数理論、擬縮退系の相対論的電子状態理論、揺らぎを含む溶液積分方程式理論の開発をさらに推進するとともに、光水素発生金属触媒の反応機構、核置換ポルフィリン類縁体の機能と反応の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に新型コロナウイルスの影響により当初参加予定だった国内・国際学会が中止および延期になったことによる。 (使用計画)新たに開催が決定したため当初計画に参加の予定がなかった研究会・学会で成果を発表するために使用する。
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