本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての多配置型電子状態理論、および、溶液内あるいは生体内などの環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液積分方程式理論の手法をあわせ開発し、従来の手法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、3D-RISM-SCF理論における溶媒分極の実装、溶媒和モデルと電子状態理論に基づくpKaの予測手法、ジアザポルフィリン-アミンハイブリッドの合成・光学特性・電気化学的挙動、ジアザポルフィリン銅錯体に関する代替合成法・励起状態ダイナミクス・一重項酸素の生成効率に及ぼす置換基の効果、等の成果を出版するとともに、方法論の開発として、4成分相対論的電子状態理論に基づくRISM-SCF法の開発、定pH MDシミュレーションと3D-RISM理論の混成手法の開発、また、これまでに開発した手法を基に、(1)プルシアンブルー類似体(PBA)のCsイオン親和性に関する格子サイズ依存性の検討、(2)MDと3D-RISM理論に基づくRBD-ACE2結合過程の解析、等を行った。 (1)では、遷移金属の置換がPBAのCsイオン吸着能に与える影響を解明するため、プルシアンブルーのFe(III)を他の遷移金属に置換し、第一原理計算による結合エネルギー解析を行った。Csイオン結合エネルギーの結果より、Cu-PBAは低いCsイオン親和性、Zn-PBAとMn-PBAは高いCsイオン親和性を持つことを明らかにした。(2)では、ACE2とSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の結合過程をMDシミュレーションと3次元RISM理論を用いて検討した。MDと3D-RISMによる包括的な解析により、RBD-ACE2結合過程におけるタンパク質構造、溶媒和熱力学特性の変化とそれらの相関を明らかにした。
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