研究実績の概要 |
イミダゾリウム系イオン液体1-alkyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)amide(CnmimTFSA, nはアルキル鎖長)とシクロエーテル類、tetrahydrofuran(THF), 1,4-dioxane(1,4-DIO), 1,3-dioxane(1,3-DIO)との混合状態と相平衡を、IRやNMR法による分子個々の相互作用と小角中性子散乱(SANS)法によるクラスター形成の両面から明らかにした。 298.2 Kにおいて、THFと1,3-DIOはアルキル鎖長n = 2, 4, 6, 8のCnmimTFSAと任意の割合で混合した。IR及び1H, 13C NMR測定からTHFと1,3-DIO分子はイミダゾリウム環2位水素原子と水素結合することがわかった。このことが、CnmimTFSAとTHF及び1,3-DIOの混合に寄与していると考察した。 一方、1,4-DIOとn = 2, 4, 6, 8のCnmimTFSAとの混合は非相溶モル分率領域を示した。非相溶領域はnが長いほど狭くなり、n = 6, 8では上部臨界溶液温度(UCST)を示した。1,4-DIO分子の極性が低いため、1,4-DIOはイミダゾリウム環2位と相互作用しているTFSA-を双極子-双極子相互作用で溶媒和することができない。したがって、1,4-DIOはイミダゾリウム環2位と水素結合を形成することができない。このことが非相溶の原因である。 SANS法により温度低下に伴うC8mimTFSA-1,4-DIO-d8混合溶液中のクラスター発達を観測した。UCSTモル分率において決定した臨界指数νは、3D-Ising機構で相分離が起こることを示唆した。温度低下に伴う1,4-DIO分子間相互作用の3次元的発達が相分離の原因であると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イミダゾリウム系イオン液体CnmimTFSA-THF, 1,4-DIO, 1,3-DIO二成分溶液の混合状態をIR及びNMR法による分子間相互作用とSANS法によるクラスター形成から捉えることに成功している。これらの実験・解析はおおむね順調に進んでいる。特に、イミダゾリウム環水素原子とシクロエーテルとの水素結合が混合の均一・不均一性に寄与するファクターであることを明らかにできた。さらに、C8mimTFSA-1,4-DIO混合溶液に対するSANS実験では、SANSプロファイルのフィッティングから見積もった相関長ξの温度依存性から臨界指数νを決定した。この系のUCST組成では3D-Ising機構で相分離が起こることを解明した。イオン液体-分子性液体混合溶液の相分離機構を報告した研究例はなく、本研究が世界で初めてである。
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