研究実績の概要 |
イミダゾリウム系イオン液体1-Hexyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)amide(C6mimTFSA)と分子性液体であるFormamideとの混合溶液は上部臨界溶液温度(UCST)型相分離を起こす。小角中性子散乱(SANS)測定によりUCSTモル分率では3D-Ising機構で、その前後のモル分率では平均場機構で相分離が起こることがわかった。すなわち、3D-Isingから平均場へ相分離機構がクロスオーバーする。このクロスオーバーは、前年度にSANS実験を行った1-Methyl-3-octylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)amide(C8mimTFSA)-1,4-dioxane混合溶液系でも見られた。 3D-Ising機構では水素結合のような近距離の相互作用が相分離に寄与し、平均場機構では電場のような遠距離の相互作用が影響していると考えられる。これらのことを、イオン液体-分子性液体混合溶液の相分離で確認するために、赤外分光や1H, 13C NMRによりイオン液体と分子性液体のミクロスコピックな相互作用を観測した。さらに、分子動力学(MD)法によって、相互作用をシミュレーションした。その結果、イオン液体-分子性混合溶液の相分離は、温度低下にともなう水素結合強化により発達した分子性液体クラスターが、陽イオンと陰イオンの静電的相互作用によるイオン液体クラスターを排除したときに起こると考えられた。UCSTモル分率では、前者が大きく寄与することによって3D-Ising機構で相分離し、UCST以外のモル分率では、後者により平均場機構で相分離が起こると考察した。しかし、なぜUCST組成で分子性液体間の水素結合強化の寄与が大きくなるかはわからない。下部臨界溶液温度(LCST)型相分離を起こすホスホニウム系イオン液体Tetrabutylphosphonium trifluoroacetate(P4444TFA)-水混合溶液と電荷を持たない分子性液体同士の混合溶液であるアセトニトリル-水系に対するSANS測定を実施し、クロスオーバーの原因を分子レベルで解明している。
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