バクテリア酵素が媒介する6価-4価ウラン還元反応においては、重い同位体(238U)が軽い同位体(235U)より、生成物である4価ウランに還元される。一方で一般的な非生物性触媒による還元では、このような同位体効果が見られなかった。この同位体分別の違いを、古生物学に応用することが期待されているが、同位体分別のメカニズムが異なる理由が不明であった。そこで本研究では、高精度な相対論的量子化学法に基づく理論計算を実施し、同位体分別を素反応レベルで解析し、ウラン生物性還元のメカニズムの解明に取り組んだ。 2018年度には、生物性酵素をモデル化した6価-4価ウラン還元の多段反応経路に対して、各素反応における熱的平衡を仮定した場合の同位体分別係数を理論計算により求めた。2019年度には、この多段反応に対して定常状態近似を導入することで、実験結果と我々の理論計算結果を矛盾なく説明できる非平衡の同位体分別メカニズムを提唱した。2020年度に論文執筆や学会発表を行い、2021年度には同論文がGeochimica Cosmochimica Acta誌に掲載された。さらに約60種の4価、5価、6価ウラン化合物の同位体分別係数の値を理論計算から求め、データベースを作ることを試みた。HF法とDFT法を用いた理論計算を行ったところ、実験値の存在する6価-4価間の塩酸水溶液中での同位体分別係数の値では、HF法の方がDFT法より実験値との一致がよかった。一方で、6価-6価間の配位子交換系の同位体分別係数においては、DFT法の方がHF法よりも実験値と良い一致を示した。この結果と、ウランf軌道の占有数解析から、開殻系の4価ウラン種の計算において、デフォルトのDFT法による電子状態計算がうまくいっていない可能性が示唆された。
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