研究実績の概要 |
本研究の目的は,金属ナノ構造体における時々刻々の電子正孔対のエネルギーおよび空間分布を明らかにし,その近傍で起こるプラズモンケミストリー諸過程の定量的な予言を可能とすることである.今年度は以下の3点について研究を進めた.
(1)表面系などの半無限系へも展開可能なジェリウムモデルについての基底電子状態,光学応答が計算可能なコードの作成を行い,ナノ粒子系および特異な光応答が知られるIr(111)/Cs/graphene系についての計算を行い,その実効性を示した. (2)電子正孔対のダイナミクスにおける電子相関の影響を調べるために,基底状態とプラズモン励起状態からなる波束に対応する「サウレス表示のフロケ擬固有状態波動関数」を構成し,サウレスパラメータの時間発展を通じてダイナミクスを解析する新たな手法を提案した.本手法を環状のナトリウムクラスターの分子面垂直方向のプラズモン励起に付随する電子正孔対のダイナミクスに適用し,次のことが明らかになった.(a) 電子相関により,ある軌道を占める電子対は避けあって互いに面の反対側に存在するようになる.(b) 互いに避けあった位置に電子はトラップされ,光励起による集団運動の励起には,ある閾強度よりも強い光が必要となる.(c) クラスターサイズの増大に伴って,より電子正孔対の運動の集団性は高まり,また,閾強度も低くなる. (3)Au, Ag, Cuの8量体クラスターの超短パルス励起で生じる波束の位相緩和に関連して自己相関関数の解析を行い,Ag, Cuにおける集団励起の緩和の時定数がAuに比べて大きいことを明らかにした.従来よりAgが理想的なプラズモン励起を示すことは知られていたが,Cuの集団励起の遅い緩和は興味深い発見であると言える.
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