研究実績の概要 |
昨年度開発した半無限ジェリウム系の光学応答計算コードを用いて,単原子層を積み重ねた Cs/graphene/Cs/Ir(111) 系のシミュレーションを行い,実験で観測されている顕著な光応答が最表面のCs一層の多極子プラズモンに由来することを明らかにした.従来の一般的な考え方によればプラズモンピークが観測されるためには少なくとも数層の薄膜が必要であるが,プラズモン励起に寄与する軌道が直下のgraphene層に由来するポテンシャルに強くトラップされることで局在化し,バルクの電子正孔対との相互作用が寸断されて長寿命化する上,励起強度も増すことが明らかとなった.この解析に必要な表面局在共鳴の評価に際しては,複素ポテンシャルを用いた非エルミートハミルトニアンの技法を適用した.この新しく開発した解析手法は,コヒーレントなプラズモン励起がホットキャリアへと変化する過程の時定数を直接計算可能とするものでもあり,今後の研究においても有用である.
上記と並行して Na, Au, Ag, Cu の8量体を例に取り,孤立系におけるプラズモンの純位相緩和過程の解析を行った.その結果,いずれの場合も状態密度が十分には密でないことに由来し,プラズモン励起に対応するコヒーレント振動の位相緩和は,単純な減衰過程と捉えるには適さない,極めて複雑な過程であることが明らかとなった.このため,複雑な位相緩和過程の理解に適した描像の抽出を可能とする新しい方法論の開発を進め,これによって例えば Na8 の場合には,系全体の理想的なプラズモンが最も早い時間帯に示す位相緩和は,表面プラズモンとバルクプラズモンに対応する運動間のものであることが明らかになった.今後の同様な解析によって,系に依存したホットキャリアの時々刻々の空間分布の特徴が明らかになると考えられる.
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