研究課題/領域番号 |
18K05043
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高屋 智久 富山県立大学, 工学部, 講師 (70466796)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 蛍光分光 / 脂質二重膜 / ゲルろ過 / 蛍光プローブ / 極性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、生体膜の部分構造のモデルとなる人工脂質二重膜を作製し、蛍光プローブを用いたレーザー分光計測によって膜内部の極性の分布を評価し、明らかにすることを目的とする。当該目的を達成するためには、(1) 直径が約10 nmにそろった人工脂質二重膜(脂質膜ナノディスク)を作製する技術、(2) 脂質膜ナノディスクに蛍光プローブ分子を効率良く封入する技術、(3) 蛍光プローブ分子の蛍光寿命から膜内部の極性を正しく推定する技術、の開発が必要となる。 当該年度は、蛍光プローブを封入しない条件で、均一な脂質膜ナノディスクの作製方法を見いだすことを第一の目的とした。前年度は界面活性剤を封入した脂質二重膜リポソームから出発し、界面活性剤を透析除去する方法で脂質膜ナノディスクの作製を試みたが、目的の直径(約10 nm)のナノディスクを単離することはできなかった。そこで、界面活性剤の除去方法を変更し、除去後の溶液をゲルろ過して脂質膜ナノディスクを含む分画を単離した。その結果、直径約4 nmの脂質膜ナノディスクの単離に成功した。 均一な脂質膜ナノディスクの作製法が見いだされたので、このナノディスクに、周囲の極性に敏感な蛍光プローブである9,9'-ビアントリル(BA)を封入することを次の目的とした。BAを封入した脂質二重膜リポソームを作製し、脂質膜ナノディスクの作製を試みたが、ゲルろ過による分子集合体の溶出時間のパターンが蛍光プローブを含まない場合から大きく変化した。そこで、蛍光プローブを含まない場合と同時刻に得られる分画を取り出し、BAが封入されているかどうかを蛍光分光によって評価した。蛍光スペクトルおよび蛍光励起スペクトルのいずれもBAに特徴的なバンドを示したことから、BAを含んだ分子集合体が単離されていることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲルろ過によって均一な脂質膜ナノディスクを単離する方法が見いだされたことにより、前年度の研究の遅延分を大きく取り戻すことができた。一方、蛍光プローブを封入した均一な脂質膜ナノディスクの作製方法は未だ確立していない。蛍光プローブ封入脂質膜ナノディスクが安定に作製できていないため、ナノディスク膜中の極性の分析評価に取り掛かれていない。以上を総合的に評価すると、当初の研究目的を達成するにはなお研究進度が不足していると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究で、9,9'-ビアントリル(BA)を含む脂質膜分子集合体が生成したことを示唆する結果が得られた。しかしながら、その脂質膜分子集合体が均一な脂質膜ナノディスクであるかどうかは未確認である。蛍光プローブを封入していない場合と比較してゲルろ過時の溶出時間のパターンが大きく異なることから、得られた分子集合体が均一な脂質膜ナノディスクでない可能性が高い。また、脂質膜分子集合体を含む分画について、当該分子集合体の濃度がひじょうに低いことが問題である。 以上の問題を踏まえ、当該年度に開発した脂質膜ナノディスク作製法が蛍光プローブを封入する場合にも同様に有効であるかを確認する研究を、脂質膜ナノディスクの極性評価を進める前に実施する必要がある。リポソームに対するBAの封入効率がそもそも低いため、リポソームに対する封入効率の高いtrans-スチルベンなどをBAの代わりに用いて、脂質膜ナノディスクの蛍光プローブへの封入効率、およびナノディスクのサイズの均一性を評価する。現在までに、ヒドロキシ基を有するtrans-スチルベン誘導体を脂質膜ナノディスクに封入しようとすると、界面活性剤とともに除去されることが示唆される結果を得ている。このような知見を蓄積し、蛍光プローブ封入脂質膜ナノディスクの安定的な作製法を見いだしたうえで、脂質膜極性の分析評価を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
蛍光寿命分光計の光源であるサブナノ秒パルスレーザーに不具合が生じた。当該年度の予算残額のみではレーザーの修繕が依頼できないことが分かったため、次年度予算と併せて修繕に使用することとした。
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