研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、生体膜の部分構造のモデルとしてナノメートルオーダーの大きさの人工脂質二重膜を作製し、膜内部の極性を評価することである。極性を評価するため、膜中に蛍光プローブ分子を封入し、レーザーを用いて蛍光寿命を測定する。前年度の研究で、均一な大きさの脂質膜ナノディスクの作製方法が見いだされた。本年度は蛍光プローブ分子を封入した脂質膜ナノディスクの作製方法を検討し、膜物性の評価に取り組んだ。 まず、4'-ヒドロキシ-trans-スチルベン(tSB-OH)が封入された脂質二重膜ナノディスクの作製方法を見いだした。この方法で、脂質膜ナノディスクへ9,9'-ビアントリル(BA)を封入すると、ナノディスク分取時のHPLCチャートの形状がtSB-OHを封入した場合と大きく異なっていた。BAの封入によって脂質膜ナノディスクの大きさや物性が大きな影響を受け得ると分かったため、tSB-OH封入脂質膜ナノディスクの蛍光寿命を測定してナノディスク内部の粘度を評価することとした。 脂質膜ナノディスクに封入されたtSB-OHを光励起し、蛍光減衰曲線を記録した。得られた減衰曲線は3つの指数関数を用いてよく近似された。3つの蛍光寿命のうち、最長のものを除く2つがtSB-OHの光異性化による寿命に帰属された。以上の測定・解析により、脂質分子数が1層あたりおよそ100個程度の脂質二重膜であっても、2種類の異なる粘度環境が存在することが明らかとなった。脂質膜ナノディスクとリポソーム(直径約100 nm)について、2種類の粘度を小さい方どうし、大きい方どうしで比較すると、いずれもナノディスクの方が小さかった。一方、本研究とは異なる手法で作製されたディスク型脂質二重膜について、本研究で得られた値と同程度の粘度が報告されている。以上から、膜形状が平面に近づくほど脂質二重膜の粘度が減少することが示唆された。
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