研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き,一重項・三重項による項間交差を考慮した非断熱非経験的分子動力学シミュレーションプログラムを開発し,実験により詳細な解析が進められているメチルアミンの光分解過程やアクリジニウムエステルの化学発光へ応用した。特に,化学発光の系においてはDMSO溶媒中での粒子メッシュエワルド総和(PME)法に基づく量子古典混合PME-QM/MM(ONIOM)モデルの基に分子動力学シミュレーションを実施することができた。 研究成果は,溶媒を分極連続媒体(PCM)モデルでは得られなかった新たな反応経路を見出した。さらに,項間交差における遷移確率を88.89 %と見積もることに成功した。つまり,溶媒中におけるシミュレーションにおいても燐光を発する経路へ反応が進むことが確認された。その一方,大きな問題であった一重項・三重項による項間交差の理論的扱いについて一定の指針を得ることに成功した。詳細は述べないが,あるパラメータで非断熱遷移確率の最適化が可能と考えており,発光をも最適化する理論の確立に成功している。
最終年度,研究の進展が少し滞ってしまったが,この3年間における我々の世界に向けた成果は,ACS(米国化学会)Pharmacology & Translational Science誌[1]にて,開発したPME-ONIOM理論が,SARS-CoV-2及びCOVID-19を用い厳密な計算として利用され,化学発光の系の可能性をAngewandte Chemie International Edition Review 誌[2]にて取り上げられたことであった。[1] K. Liu et al. ACS Pharmacol. Transl. Sci. 2020, 3, 1361-1370; [2] Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 2-26.
|