研究実績の概要 |
今年度も,可逆な酸化還元能を持つ水車型二核錯体([Ru2])を電子ドナー(D)とし,TCNQを電子アクセプター(A)兼架橋配位子として用いることにより,D2A型の組成を持つ二次元層状配位高分子磁石を合成し,その磁気特性やガス・溶媒蒸気吸着特性について検討を行った.以下,顕著な特性が見られた化合物の概要を示す. {[Ru2(2,4-F2PhCO2)4]2[TCNQ(OEt)2]}は,脱溶媒状態では2つある[Ru2]ドナーからTCNQ(OEt)2へと電子移動が起き,TCNQ(OEt)2 2- ジアニオンを持つが,ベンゼンや,p-キシレン,ジクロロメタン,1,2-ジクロロエタン,二硫化炭素など様々な溶媒蒸気を吸着させることで,ジアニオンから[Ru2]+への電荷移動が誘起され,TCNQ(OEt)2-ラジカルが生じる,柔軟な電子状態を持つ.脱溶媒相は,反磁性TCNQ(OEt)ジアニオンの存在により磁気相転移を示さないが,溶媒を吸着させた化合物はいずれも磁気相転移を示し,その多くは相転移温度が70-92 Kのフェリ磁性体へと変わる一方で,二硫化炭素を吸着させた場合では,相転移温度78 Kの反強磁性体となった.本結果は小分子の吸着により,磁石でない化合物を磁石へと変換した初めての例であり,さらには吸着させる化学種の種類に応じて,異なる磁気相転移温度,磁気秩序を持つ磁石へと変換した初めての例でもある. 本研究全体を通じ,様々な機構(O2スピンによる磁気相互作用の媒介,CO2と骨格の相互作用による電子的摂動,ホストゲスト間水素結合など)による多孔性層状磁石の吸着磁気応答性が明らかになり,これらは1) 層間磁気相互作用の変換,2) 層内電子状態の変換,の2つに大別することができる事が分かってきた.これらは,化学的刺激により駆動する磁気デバイスの開発・発展へとつながる成果であると考えている.
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