研究課題/領域番号 |
18K05057
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡澤 厚 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30568275)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性磁性体 / 遷移金属錯体 / 有機ラジカル / 強磁性的相互作用 / 結晶構造解析 / キレート配位 / ビラジカル |
研究実績の概要 |
極限に強い磁気結合力を有し、ラジカル―金属錯体系の構造と磁性のシンプルな相関性が見出されてきた「ラジカルキレート配位子」の展開として、マルチサイトなラジカルキレート配位子の新規開発を目標として、平成30年度は二箇所でラジカルキレート配位が可能な「デュアルラジカルキレート配位子」の開発を推進した。 「三座+二座」キレート可能なビラジカル配位子をクレーンケピリジン合成法によって構築することを試みた。市販の原料から3ステップで、ターピリジン骨格の構築に成功した。この化合物は、互変異性としてピリドン体で単離されている。連結位置の複雑なターピリジン骨格の形成に、クレーンケピリジン合成法が有用であることを示すことができた。今後は、ヒドロキシル基をブロモ化し、続いてヒドロキシル基に変換して酸化剤でラジカル化することで目的のビラジカル配位子を得る。当該年度の目標としていた目的とするビラジカル配位子の合成は未達成であるが、途中段階のピリドン体で思いがけず溶液中で発光性を有するものが得られた。粉末は紫色であるが、溶媒の極性に応じて緑~青色溶液に呈色するソルバトクロミズムを示した。また、Znイオンを共存させると紫外線照射で強く発光する。今後、特定のイオンを認識するセンサー材料などへの発展も期待される。 また、当該年度はこれまでの研究成果として「デュアルラジカルキレート配位子」の元となったラジカルキレート配位子の論文化を進め、英国化学会の国際学術誌のひとつであるNew Journal of Chemistryに投稿し受理された。研究内容が評価され、当該学術誌のバックカバー絵に選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、目標としていた「三座+二座」キレート配位ビラジカルは合成途中にある。活性メチレン体とマイケル受容体によるクレーンケピリジン合成によってターピリジン型の骨格を構築するが、はじめにエステル体のマイケル受容体を用いたため合成が上手く進まなかった。活性メチレン側をエステルとする改良によって、ターピリジン骨格を構築することに成功した。この後はブロモ化、ヒドロキシルアミン体(ラジカル前駆体)へ進めていく。 また、現在合成しているターピリジン化合物は互変異性としてピリドン体である。これは、当初想定していなかったソルバトクロミズムを示し、溶液中で発光する。この類似化合物は、Zn共存下で特異的に強く発光することが知られており、イオンセンサーとしての応用も期待されるので、発光性能の評価への展開も考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在はターピリジン骨格の構築に成功しているので、今後はブロモ化のあと、ヒドロキシルアミンを導入してラジカル前駆体の合成へ進めていく。汎用的な合成経路のため、進捗に問題はないと考えられる。その後、通常の酸化剤によるラジカル化を行い、得られたビラジカルの構造解析や磁性の評価を行う。分子内の磁気結合力を求め、予想される100 K超の強磁性的相互作用が発現されるかどうかを明らかにする。加えて、現有のGaussianによってDFT計算を行い、理論的なサポートも進めていく。 さらに、遷移金属イオンとの錯形成を進める。溶解度等に問題があれば、配位子合成時にアルコキシ基を導入するなどして溶解度向上も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成が少し遅れており、薬品・ガラス器具類の購入が想定よりも抑えられたので次年度使用額が生じた。次年度はその分の薬品・ガラス器具購入が必要になるので、翌年度分予算と合わせて使用する計画である。
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