研究課題
「分子磁石の磁気転移温度を如何に高くするか?」に対して、「1000 Kを超えるラジカル―金属スピン間の磁気結合力」を活用したフェリ磁性体の構築を目指し、新規のデュアルラジカルキレート配位子の開発を推進してきた。本系ではこれまでに、極限に強い磁気結合力を有し、ラジカル―金属錯体系の構造と磁性のシンプルな相関性が見出されているが、集積化が困難であったのでこれを改善したマルチサイトなラジカルキレート配位子として、令和元年度は引き続き「三座+二座」キレート可能なビラジカル配位子となるデュアルラジカルキレート配位子の開発を行った。クレーンケピリジン合成法によって構築したシンプルなターピリジン骨格のピリドン体では溶解性が非常に悪く、続く臭素化・ヒドロキシルアミン体への変換が難しかったため、溶解性向上のためtert-ブチル基を導入した誘導体の合成を中心に行った。同様のクレーンケピリジン合成法によってターピリジン骨格が形成可能であることを明らかにし、ピリドン体の単離に成功した。狙い通り、汎用的な有機溶媒(例えばクロロホルム等)に易溶であることも確認できた。今後は、ピリドン体のブロモ化とそれに続くヒドロキシルアミン体の合成、ラジカル化へと進むことで目的のビラジカル配位子の単離を目指していく。目標のビラジカル配位子の合成は少し遅れてしまったが、溶解性の問題点をクリアできたのでさらに研究を推進していくことが可能となった。
3: やや遅れている
目標である「三座+二座」キレート配位可能なビラジカルの合成は前駆体の溶解度に問題があり、改めて主骨格に置換基を導入した合成経路をで開発を進めて行ったため当初よりスケジュールが遅れてしまった。しかし、溶解性の向上は十分達成できたため、今後の合成を加速させていけば本研究の目標としたビラジカル合成とその磁性解明をスムーズに進めることは可能だと考えている。
今後は溶解性向上の出来たtert-ブチル置換体のピリドンをブロモ化し、ヒドロキシルアミン体の合成ならびにラジカル体の単離へと進めていく。この先は汎用的な合成経路のため、進捗に問題はないと考えられる。主骨格に導入したtert-ブチル基は、立体保護の観点から得られるビラジカルの安定性も向上させると想定される。このビラジカルの結晶構造解析やSQUID装置による磁気特性の解明を行っていく。当初の狙い通り、分子内の磁気結合力が100 K超となるかどうかを明らかにする。さらに、遷移金属イオンとの錯形成も進めていき、室温級の強磁性的磁気カップラーとして活用可能どうかを明らかにしていく。
薬品・ガラス器具類の購入が想定よりも抑えられたので次年度使用額が生じた。次年度はその分の薬品・ガラス器具購入が必要になるので、翌年度分予算と合わせて使用する計画である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件)
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