「分子磁石の磁気転移温度を如何に高くするか?」という問いに対して、「1000 Kを超えるラジカル―金属スピン間の磁気結合力」を活用したフェリ磁性体の構築を目指し、新規のデュアルラジカルキレート配位子の開発を推進してきた。本系ではこれまでに、極限に強い磁気結合力を有し、ラジカル―金属錯体系の構造と磁性のシンプルな相関性が見出されているが、集積化が困難であったのでこれを改善したマルチサイトなラジカルキレート配位子として、令和2年度は引き続き「三座+二座」キレート可能なビラジカル配位子となるデュアルラジカルキレート配位子の開発を行った。溶解性を向上したtert-ブチル基置換体のピリドン体から臭素化を行い、ラジカルの前々駆体であるジブロモ体の合成に成功した。一方で、「二座+二座」型マルチラジカルキレート配位子ではヒドロキシルアミン体の合成時に溶解性の悪さから収率が低かったが、合成方法の改良により収率を20%程度から50%近くの二倍程度まで向上させることができた。この配位子を用いてニッケル(II)錯体二核錯体を単離し、結晶構造解析と磁性を明らかにした。本系ではキレート面の捩じれを表現する簡便な構造的パラメーターと交換相互作用の相関性が良いことが知られている。これまで、ニッケル(II)錯体では小さい捩じれ構造の物質が多かったが、今回は比較的嵩高いキャップ配位子を使うことで捩じれの大きい物質を得ることができた。この構造磁性相関との整合性を確かめるため、量子化学計算と合わせて交換相互作用の詳細を解明し、研究成果報告の論文を準備している。
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