研究課題/領域番号 |
18K05058
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
久田 研次 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (60283165)
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研究分担者 |
平田 豊章 福井大学, 学術研究院工学系部門, 講師 (30800461)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 局所粘度 / 金属-アルカン界面 / 水晶振動子 / レゾネータ測定 / 吸着分子膜 / 脂肪酸 / アドミッタンス解析 / 示唆走査熱量測定 |
研究実績の概要 |
・水晶振動子測定システムをもちいた脂肪酸を添加したアルカンの金属近傍での局所粘度の経時変化の測定 昨年度にセットアップを完了した溶剤系の水晶振動子測定システムを使用し,鎖長の異なる脂肪酸を添加したヘキサデカンならびにテトラデカン中に浸漬した水晶振動子のアドミタンスの周波数特性から、電極近傍での流体粘度(吸着分子膜から流体へのエネルギー散逸量)を評価した。基油として用いたアルカンによらず,炭素数が16以上の飽和脂肪酸を添加した際に局所粘度の増大が生じることが明らかになった。ヘキサデカン酸を添加した場合には29℃以下で局所粘度が増加したが,添加剤をオクタデカン酸にすると35℃においても粘度増加が観測された。また,不飽和脂肪酸であるオレイン酸を添加した場合には,テトラデカン酸を添加した場合と同様に,局所粘度が時間に依存せず一定であった。以上の結果から,吸着層が流動性と配向性を併せ持つとき(水面上単分子膜での液体凝縮膜と類似の状態の際)にこの局所粘度が増加するという挙動が再現されることを明らかにした。また,アドミッタンス円線について,4素子の等価回路を用いた解析した結果,電極-流体間の相互作用と電極への物質吸着による応答を分離することができるようになった。その結果,浸漬後に10倍以上の局所粘度増加が観測される状況においては,相当量の物質吸着も並行して起こっていることを示した。また,このような吸着層の成長において水晶振動子の高周波の振動は必須ではなく,開回路として静置しておいても同様の変化が同程度の速度で進行することが観測された。 ・示唆走査熱量(DSC)測定 銅粒子を添加したヘキサデカンを冷却した際には過冷却の後に凍結が開始するが,ヘキサデカン酸を添加したヘキサデカンでは,極端な過冷却にいたらずスムースに凍結が開始するという現象がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に導入した水晶振動子測定システムを用いて,溶剤系における分子膜が吸着した電極表面における局所粘度の評価が順調に進行し,申請時に掲げていた金属表面での濃厚層の形成、ならびにそれが生じる実験条件に付いて再現性のあるデータが蓄積されている。 水晶振動子の共振周波数減少に対して,粘度増加に伴う周波数シフト分を補正し,金属に強く吸着した分子層の重量を見積もることも検討している。等価回路解析により物質吸着と電極流体の相互作用の因子の分離ができつつあるので,前年度の積み残しの課題が改善された。 また,想定している分子膜を起点として流体中に数百nmにも及ぶ秩序だった吸着層の形成の傍証となるような凍結挙動も観測されたため、全体としては概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従って以下のとおり推進していく方針である。 <QCM測定における粘度効果の補正>アドミッタンス円線を4素子の等価回路により解析し,本現象を引き起こす流体分子の吸着量について同時評価する。 <多様な添加分子による吸着層の形成と局所粘度変化の相関>金属-流体界面に介在する吸着層の集合構造や運動性によって金属-流体間相互作用が変化すると考えられる。そこで、昨年度までよりもさらに鎖長の長い添加剤を添加して水晶振動子のアドミッタンス解析を行い、流体相と吸着層の間の相互作用に関して網羅的に解析する。 <表面性試験機と水平力顕微鏡(LFM)による摩擦力測定>水晶振動子測定に用いたのと同じ組成の流体層(アルカン+添加剤)を潤滑剤としたときの潤滑特性 (摩擦係数および破断強度)を、走査プローブ顕微鏡の一種である水平力顕微鏡(LFM)あるいは機械工学分野で使用される表面性試験機を用いて測定する。これら二つの測定手法を用いた潤滑特性と前項で明らかにした吸着層の構造および流体との相互作用の相関をとり、トライボ特性に影響するような吸着層の実像を明らかにする。 <温度可変水晶振動子アドミッタンス解析>流体に溶解している鎖状分子の金属界面への吸着は、界面活性剤の気水界面への吸着と同様に界面とバルクで平衡状態にあると考えている。水晶振動子アドミッタンス解析により求められる局所粘度や吸着量の温度依存性から、初期過程ならびに後期過程での吸着層形成の描像と形成メカニズムについて考察する。これまでの結果から,吸着単分子膜へ流体分子が吸脱着する速度が界面膜の厚膜化を引き起こすトリガーとなりうることを示した。今後,さらに広範囲のアルカン-脂肪酸系について水晶振動子測定システムを用いた測定を継続するとともに、示唆走査熱量測定ならびに中性子反射率測定を組み合わせることで,吸着後期における膜成長についての理解を深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に購入した器具や試薬が2019年度に利用できたため,想定していた物品を購入することなく想定していた年度計画を遂行することができた。また参加予定していた学会での発表が招待講演となったため,必要と考えていた旅費が不要となった。 経費に余裕ができたため、示唆走査熱量測定および中性子反射率測定という実験を追加し,吸着膜の組織構造についてより詳細に検討することで,当初目標に沿って充実した成果を挙げるために活用する。
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