研究実績の概要 |
本研究では、二重らせん構造の特徴を最大限に活用し、そのキラルな『らせん空間』にアキラルな触媒部位を位置特異的に導入した二重らせん分子を合成するとともに、『らせんがバネである』という概念を基盤とした刺激応答性の動的不斉触媒の開発、すなわち、二重らせんの伸縮運動に基づく不斉反応のスイッチを目指す。また、『自己会合』と『らせん誘起』の概念を巧みに利用し、位置選択的・不斉選択的光二量化反応の開発にも取り組み、以下に示す成果を得た。 1. 6,6’位にメチル基を有する2,2’-ビピリジンN,N’-ジオキシド部位をリンカーとして導入したオリゴフェノール誘導体とNa2B4O7を反応することで二重らせんホウ素ヘリケートを合成するとともに、得られたヘリケートが、酸・塩基の添加により、可逆的に伸縮運動することを明らかにした。 2. 2,6-置換アントラセン部位をリンカーとして導入したカルボン酸二量体を合成するとともに、光学活性なアミン存在下、カルボン酸との環状水素結合形成により、一方向巻きに片寄った二重らせんを形成することが分かった。さらに、光学活性なアミン存在下、様々な温度でカルボン酸二量体のCD2Cl2溶液に光 (> 400 nm) を照射した結果、温度の低下に伴い、anti二量体の相対収率および鏡像体過剰率 (ee) は増大し、-35 °Cで、相対収率が57%に達するとともに、高い不斉選択性 (98% ee) で光学活性なanti二量体が生成することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に得られた結果をもとに、以下の研究を推進する。 1. 6,6’位にメチル基を有する2,2’-ビピリジンN,N’-ジオキシド部位をリンカーに導入した光学活性な二重らせんホウ素ヘリケートがアリル化反応の不斉触媒として機能するかどうかについて詳細に調査する。 2. 相補的二重らせんに触媒部位を位置特異的に導入した新規超分子不斉触媒の開発を目指し、第二級アミン部位としてピペラジン残基を有するm-ターフェニル骨格を片末端あるいは中央に導入した光学活性なアミジン鎖およびカルボン酸二量体と三量体を合成するとともに、これらの鎖からなる相補的二重らせん分子がシクロヘキサノンとp-ニトロベンズアルデヒドのアルドール反応の不斉触媒として機能するかどうかについても詳細に調べる。
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