研究課題
本研究では、二重らせん構造の特徴を最大限に活かし、そのキラルな『らせん空間』にアキラルな触媒部位を位置特異的に導入した二重らせん分子を設計・合成するとともに、二重らせん空間を特異な不斉場に用いて、従来の方法では実現が困難な不斉反応の開発を目指す。また、『自己会合』と『らせん誘起』の概念を巧みに利用することで、位置選択的・不斉選択的光二量化反応の開発にも取り組む。2019年度は以下に示す成果を得た。1. 第二級アミン部位としてピペラジン残基を有するm-ターフェニル骨格を中央に導入した光学活性なアミジン三量体とカルボン酸三量体からなる相補的二重らせん分子を不斉有機触媒に用いて、シクロヘキサノンとp-ニトロベンズアルデヒドのアルドール反応を行ったところ、良好な触媒活性を示すとともに、不斉選択的に反応が進行することを見出した。これは、光学活性なアミジンのキラリティによって誘起された相補的二重らせん分子に導入したアキラルな第二級アミン部位とカルボン酸部位が近接し、協奏的に作用することで、キラルな触媒サイトが効果的に構築されたためと考えられる。2. (R)-1-フェニルエチルアミン存在下、2,6-二置換アントラセンリンカーを有するカルボン酸二量体からなる一方向巻きに片寄った二重らせん分子の不斉選択的光二量化反応により得られた光学活性なanti二量体 (> 99% ee) がラセミ体の1-フェニルエチルアミンに対して不斉識別能を示すことも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の計画通り、新規に設計・合成した光学活性な二重らせん分子のキラルな『らせん空間』が不斉選択性の発現に極めて重要であることを明らかにした。また、本研究成果は学術論文 (ChiralityとAngewandte Chemie International Edition) に掲載されていることからも、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
これまでに得られた結果をもとに、以下の研究を推進する。2,2’-ビピリジンN,N’-ジオキシドリンカーおよび6,6’位にメチル基を有する2,2’-ビピリジンN,N’-ジオキシドリンカーを中央に導入した光学活性な二重らせんホウ素ヘリケートをそれぞれ有機触媒に用いて、酸・塩基による可逆的な伸縮運動 (伸張型と収縮型) を駆動力とした不斉アリル化反応および不斉プロトン化反応における不斉選択性のスイッチ (ON-ON) の制御が可能かを詳細に調査する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Chirality
巻: 32 ページ: 254-264
10.1002/chir.23169
Angew. Chem., Int. Ed.
巻: 59 ページ: 7478-7486
10.1002/anie.201916103
Chem. Commun.
巻: 55 ページ: 12084-12087
10.1039/c9cc06126f
http://www.helix.chembio.nagoya-u.ac.jp/j/TOP.html