Siや金属酸化物などの原子性結晶では、ホスト化合物中の原子Aと類似の大きさだが電子状態が異なる原子Bをゲストとして結晶中に導入する。また、遷移金属イオンなどの異なる原子価が可能な場合、酸化還元的過程を介して混合原子価状態にできる。また、合金は置換・混合する量が不純物程度を超える点でドーピングとは異なるが類似の化学である。これらはいずれも、電子状態が異なる原子Aと原子Bを任意の組成比xで混合して得られた化合物A1-xBxの物性・機能がAやBの固体とも異なる新しい化合物にする化学反応という点で類似している。原子性固体ではバンドフィリング制御として成功した方法であり、個々の原子AとBは①固体中でランダムに存在、②ホスト原子と電子的な相関が必要で、これにより両者が融合した「シナジー効果」が現れる。加えて③組成比xを連続的に変化させることにより物性のチューニングが達成できる。この点で分子性結晶中の分子は孤立性が強いため②の達成が困難になる。例外として、π分子の軌道の重なりが十分な場合、ドーピングによりπカラムに沿った方向の電気伝導性が劇的に変わる。他にもスピンの有無を活かした磁気希釈など、分子性結晶においてもドーピングは新奇な物性の開拓に成功してきた。 そこで、分子としてのサイズ・形状が同じまま、電子状態を変えられるポリオキソメタレートについて、原子価の異なるクラスターからなる混晶を作製し、組成比に応じてマクロスコピックな性質が変わるような「超原子ドーピング・分子性合金」に着眼した。特に、固相ポリオキソメタレートが機能性材料として近年活躍が見られる固相電解質や電池材料、まだ基礎研究ステージにある分子性量子ドットとしたエレクトロニクス材料として、諸物性値に対する組成比との状態図を作製し、新たな機能性開拓の軸とした物性・機能開拓研究を目指した。
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