研究課題/領域番号 |
18K05064
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
田島 裕之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (60207032)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蓄積電荷測定法 / 電荷注入障壁 / ACM / 有機デバイス / フタロシアニン / ペンタセン |
研究実績の概要 |
一昨年度の研究で成果を得た蓄積電荷測定法による電子注入障壁の決定に関する論文を、アメリカ化学会の雑誌、J.Phys. Chem. Cに投稿し受理された。 また、蓄積電荷測定法で得られる実験データを精密な理論計算により再現することに成功した。蓄積電荷測定で得られる電荷注入パラメータと内部電圧のグラフには2通りのパターンがあることはわかっていたが、この違いが電荷抽出プロセスの違いによることがこの解析により初めて明らかになった(熱平衡型と準安定状態型の電荷抽出プロセス)。計算結果は学術雑誌への投稿ができるようにとりまとめたところであり、現在投稿のための作業を行っている。 また、上記の2つの研究成果に加えて、有機FET関連の研究を行い、論文として公表した。 蓄積電荷測定法の実験を進めるにつれて、電極/絶縁体/有機半導体/電極からなるコンデンサーでは、電荷注入が不完全になる現象(有機半導体への電荷注入が起こっているにもかかわらず、微分電気容量が絶縁層の電気容量よりも小さくなる現象)がわりと頻繁に起こることがわかった。この現象は、有機FETで観測される電界効果移動度が試料作成条件によって変わる現象とも密接に関連していると考えられる。蓄積電荷測定を行わない限り観測できないため、この現象はこれまでの研究でほとんど認識されていない。不完全電荷注入現象は電気化学のヘルムホルツ層に類似した電荷注入ができない層が有機半導体層の一部に存在することを示唆する。この現象の解明は蓄積電荷測定のみならず、有機デバイス研究において非常に重要と思われるので、今後はこの現象の解明に力を注ぐ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
精密な理論計算により、蓄積電荷測定法で得られる実験データを理論モデルで再現することに成功したことは既に記載したが、実験結果と理論計算の一致は予想以上であった。さらに、電極/絶縁体/有機半導体/電極の構造を持つコンデンサー型試料の電荷抽出プロセスにおいて、電荷抽出プロセスに異なるタイプがあるという発見は、想定外の発見であった。この発見により、蓄積電荷測定の研究は一段と進むことが予想される。以上のことから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当座は、理論計算の結果をまとめて論文として発表することに力を注ぐ。またこの結果から、蓄積電荷測定の電圧掃引方式を変えることにより、トラップ等の影響を減らして実験を行える可能性を見いだしたので、その実験を試みる。また今回得られた理論研究の成果を土台として、不完全電荷注入現象の解明に力を注ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は緊急事態宣言発令のため参加予定の学会が開催されず、主に旅費の点で残を生じた。パンデミックによる学会開催の延期は今年度も継続しそうなため、この分は今年度の研究における物品費、装置の修理費、論文投稿費用等に充てる。
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