研究実績の概要 |
重なり積分から擬三次元的相互作用が示唆されるBDH-TTPの単結晶が高移動度(2.03 cm2/Vs)を示すことを踏まえて、BDH-TTPのジメチル類縁体MeDH-TTPとシクロペンタン類縁体CpDH-TTPの合成・X線構造解析に成功した。両者の重なり積分を計算した結果,MeDH-TTPの結晶構造では分子の二量化が強いことが示唆され,CpDH-TTPの結晶構造では擬二次元的相互作用が示唆された。両者の単結晶作製を様々な溶媒を用いて試みたが良質な単結晶は得られなかったので,MeDH-TTPは真空蒸着により,CpDH-TTPはその溶液の真空乾燥により成膜して移動度を測定した。MeDH-TTPとCpDH-TTPの薄膜移動度は,それぞれ8.14×10-3, 6.56×10-5 cm2/Vsであった。 また,分子の長軸方向に沿ってカルコゲン原子が導入されたTTP-DTとTTTP-DTの合成・X線構造解析に成功した。TTP-DTは2-(ピラン-4-イリデン)-1,3-ジチオールに,TTTP-DTは2-(チオピラン-4-イリデン)-1,3-ジチオールに1,3,5-トリチエパンが縮環した分子である。TTP-DTの結晶構造ではピラン環の酸素とトリチエパン環のメチレン基の水素との間に水素結合が観測され,重なり積分から弱い一次元的相互作用が示唆された。TTTP-DTの結晶構造では分子がκタイプで配列した層を形成しており,重なり積分から弱いながらも三次元的相互作用が示唆された。TTTP-DTの単結晶移動度を測定したところ,1.61×10-4 cm2/Vsであった。TTP-DTとTTTP-DTはTCNQと錯体を形成し,それぞれのTCNQ錯体はペレット状態で活性化エネルギー(Ea = 24, 22 meV)の小さい半導体的挙動を示した。しかし,両者のTCNQ錯体の構造解析には至っていない。
|
今後の研究の推進方策 |
MeDH-TTPとCpDH-TTPの結晶構造において見られたように,BDH-TTPの外側のジチオラン環をジメチル基やシクロペンタン環で置換するとBDH-TTPの擬三次元性が失われてしまうことがわかった。次年度は,BDH-TTPの外側のジチオラン環をテトラヒドロピラン環,ピラン環,テトラヒドロチオピラン環,チオピラン環で置換したTHPDH-TTP,PDH-TTP,TTPDH-TTP,TPDH-TTPを新たに合成し,X線構造解析と重なり積分の計算を行い,次元性の変化を明らかにする。また,これらの単結晶移動度を測定するとともに,真空蒸着や真空乾燥,スピンコートにより成膜して薄膜移動度を測定する。 一方,π電子系として2-(ピラン-4-イリデン)-1,3-ジチオールを有するTTP-DTを用いて,PhCl中,直線状アニオン(I3-, AuI2-),四面体アニオン(BF4-, ClO4-),八面体アニオン(PF6-, AsF6-)との電荷移動(CT)塩の作製を試みたところ,少量の粉末結晶しか得られなかった。そこで,TTP-DTよりもπ電子系が拡張されたPDH-TTPとそのチオピラン類縁体TPDH-TTPを用いてCT塩の単結晶作製を検討し,得られた単結晶の伝導度測定・X線構造解析・バンド計算を行う。このような研究によって,分子の長軸に沿って片側末端に導入されたカルコゲン原子がCT塩の構造と物性にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。 さらに,TTP骨格の両側にテトラヒドロピラン環,ピラン環,テトラヒドロチオピラン環,チオピラン環を導入するための合成法を確立する。
|