今後の研究の推進方策 |
THPDH-TTPとPDH-TTPの結晶構造では,分子が均一にスタックし,そのスタックが並んで層を形成していたが,ヘリングボーン様式の分子配列ではなかった。両者における最も大きな重なり積分は分子スタック内で見積もられたが(THPDH-TTP: 9.59×10-3, PDH-TTP: 6.76×10-3),層間では評価できるほどの重なり積分は計算されなかった。しかし,PDH-TTPの結晶構造では,ピラン環の酸素原子と隣接したPDH-TTP分子における末端エチレン基の水素原子の間に水素結合が観測されたことから,分子末端への酸素原子の導入は,分子間end-to-end相互作用を発現させる上で有望であると考えられる。次年度では,BDH-TTPの外側の二つのジチオラン環をテトラヒドロピラン環,ピラン環,テトラヒドロチオピラン環,チオピラン環で置換するための合成法を検討する。 また,昨年度は2-(ピラン-4-イリデン)-1,3-ジチオールに1,3,5-トリチエパン環が縮環したTTP-DTとそのチオピラン類縁体TTTP-DTの合成に成功している。しかし,両者の重なり積分から見積もった分子間相互作用はいずれも弱く,1,3,5-トリチエパン環の折れ曲がり構造が起因していると考えられる。一方,TTF骨格の両側にベンゼン環が縮環したDB-TTFは,ヘリングボーン様式で配列し,高い単結晶移動度(0.1-1 cm2/Vs)を示すことが報告されている。そこで,TTP-DTとTTTP-DTの1,3,5-トリチエパン環をベンゼン環で置換したP-BTとTP-BTの合成を行う。 さらに,TPDH-TTPのClO4塩がペレット状態で金属的挙動(> ca. 220 K)を示したことを踏まえて,TPDH-TTPのラジカルカチオン塩の単結晶を作製するための電解結晶育成条件を検討する。
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