研究課題/領域番号 |
18K05066
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
伴野 太祐 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (70613909)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 自己駆動油滴 / 非平衡系 / カチオン性界面活性剤 / ベンズアルデヒド誘導体 / ラウロニトリル / キラリティー / 金属錯体 / 相転移 |
研究実績の概要 |
非平衡系における分子集合体の新奇ダイナミクスとして,マイクロメートルサイズの油滴が界面活性剤水溶液中を自ら動く(自己駆動する)現象が注目されている。本現象は,油滴表面において界面張力が不均一であることに起因して生じる対流構造によるものと推定されている。我々はこれまで,化学反応により界面活性剤および油滴成分の組成を変えて油滴内部と油滴界面の状態を変化させることで,細胞様の挙動が誘起されることを明らかにしてきた。本研究では,系の組成変化だけでなく,生成した成分どうしの相互作用にも着目した超分子化学的なアプローチにより,分子レベルからマクロな油滴の駆動モードを制御する手法の確立を目指している。具体的には,その場の環境に応じて油滴の駆動モードや自身の構造を変化させるという,生命にみられる相転移現象を模倣した化学システムの構築を目的とした。平成30年度においては,以下2点の現象を見出した。 ①油滴の運動モード変化:自己駆動する油滴の運動モードが変化する化学システムを構築する目的で,キラリティーを有するカチオン性界面活性剤およびベンズアルデヒド誘導体を合成した。キラリティーを有しない界面活性剤水溶液中では油滴はランダムに自己駆動するのみであったが,それらを有する界面活性剤水溶液ではランダムに駆動していた油滴がその場で回転するという特異な運動モードが現れることを見出した。 ②油滴の構造転移:油滴を所望の場所まで駆動させて,そこで停止した油滴がベシクルなどの別の分子集合体へと転移するシステムを構築する目的で,金属イオンとの配位能を有するカチオン性界面活性剤を合成した。それを含む水溶液で満たされた流路内において,片側から硫酸銅(II)水溶液を添加したところ,そちらの方へラウロニトリルの油滴が駆動するとともに,停止した油滴の周囲に膜構造を有する分子集合体が徐々に形成されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たなカチオン性界面活性剤の合成に成功するとともに,それらを用いることでランダムに自己駆動する油滴がその場で回転するという特異な運動モードを示すこと,また,油滴が別の分子集合体へと構造転移することを見出した。これらのメカニズムの詳細は明らかにできていないが,目的とするダイナミクスの誘導に成功していることから,本研究は計画通りに進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度にはまず,油滴の回転するような運動モードが現れた原因を明らかにする目的で,疎水性および親水性ビーズを用いて油滴内外の流れ場を可視化し,対流構造がどのように変化するかを調査する。それと同時に,懸滴法により界面活性剤濃度を変化させた際の油水界面張力を測定し,それが油滴の回転運動を誘起する対流構造の形成にどのように関係するかについて検討を行う。これらの観測技術および測定手法は過去の研究活動を通じてすでに整っている。 また,金属イオン添加に対する油滴の応答性と構造転移については,金属イオンと界面活性剤により生成される錯体がどのような界面活性能および分子集合体形成能を有するかを調査する。なお,現在用いている流路はポリジメチルシロキサンとアガロースゲルを用いて作製しているものであるが,幅,深さともに1ミリメートルを超えており,3次元的に駆動するマイクロメートルサイズの油滴のダイナミクスを追跡するには適当なデバイスとは言い難い。そこで,幅,深さともに数百マイクロメートルサイズの市販のマイクロ流体デバイスを利用することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画は界面活性剤および油成分の合成を基軸としていることから,当初は有機合成試薬を計上分購入する計画であった。しかし,予想以上に合成実験が順調に進展し,また,目的とする油滴のダイナミクスも誘導できたことから,計上分以下の使用にとどまった。これの使途については,2019年度より新たに市販のマイクロ流体デバイスの購入を計画していることから,その費用に充てる。
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