研究課題/領域番号 |
18K05067
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
田丸 俊一 崇城大学, 工学部, 教授 (10454951)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多糖 / らせん構造 / 光捕集 / ヒドロゲル / 超分子化学 |
研究実績の概要 |
アミロース導入カードラン(AGC)上のカードラン主鎖とアミロース側鎖の分子包摂能について評価した。カーボンナノチューブ(CNT)は主鎖にのみ複合化可能であった。主鎖の分子量が140万程度であるのに対して、側鎖は1~2万程度であることが確認され、この鎖長の違いがCNTに対する分子認識能の差となった考えられる。AGCとポリチオフェンを複合化すると、ポリチオフェンは主鎖と側鎖の双方に複合化するが、その複合特性はpHに依存することが確認された。また、主鎖上のポリチオフェンと側鎖上のポリチオフェンの光学的特性の違いを利用する事で、このAGC/ポリチオフェン錯体がFRETを利用した光捕集系の構築に成功した。 酵母残渣から化学的酸化処理によって得られるベータ-グルカンの構造について、各種測定法を用いて明らかにした。酸化処理によって、ベータ-グルカンを分解し、低分子量化するが、主鎖となるベータ-1,3鎖と側鎖となるベータ-1,6鎖のグルコース比は概ね3:1であることが確認された。また、回収されたベータ-グルカンはグルコース残渣のみで構成され、カルボキシ基などの置換基が導入されないことが確認された。得られた酵母由来ベータ-グルカンが形成するヒドロゲルの温度応答的体積収縮について定量的に評価し、十分な体積収縮を発現する事を明らかにした。これらの酵母由来ベータ-グルカンの三重らせん構造形成能しつつヒドロゲルを形成する事ができ、そのらせん構造の熱的安定性は、ベータ-グルカンの分子量に依存することが確認された。三重らせん内部にCNTを包摂したベータ-グルカンヒドロゲルを調製し、このゲル系に近赤外光照射を行う事で、ドラッグデリバリ-システム系構築に有用な熱応答的体積収縮を人体に安全な条件で行える可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の目標の一つである、アミロース導入カードラン(AGC)を利用した高効率光エネルギー変換系の構築については、AGCの構造的特性を理解することが極めて重要である。本年度の検討では、アミロース側鎖の導入量とカードラン主鎖の三重らせん形成能との関係をある程度明らかにする事ができ、過剰な導入は三重らせん形成能を低下させるが、カードラン主鎖の分子包摂能自体は十分に保持されることが確認された。また、アミロース側鎖の鎖長と分子包摂能の関係についても検討を進め、アミロース鎖長をコントロールすることで、特に高分子のゲストに対する分子包摂能を制御できることを見出した。以上の成果は、AGCを媒としたヘテロな超分子の構築の為に、極めて重要な知見であり、実際の成果として、光捕集システムの一例を示すことが出来た。 一方、酵母由来ベータ-グルカンを利用した機能性材料の開発については、酵母残渣から分離されるベータ-グルカンの詳細な構造的な情報の解明が進み、さらに分離方法との相関を明らかにする事が出来た。これらは、今後機能性材料を包摂したベータ-グルカンを活用した材料開発を行う上で、極めて重要な基礎的情報である。さらに、酵母由来ベータ-グルカンが熱応答型の体積収縮能を持つ機能性ヒドロゲルを形成する事を見出し、ここにベータ-グルカンの三重らせん形成能を利用する事で、機能性材料をらせん構造内部に包摂したまま、ヒドロゲルを調製することに成功している。よって、本研究で目標とする、スマートなソフトマテリアルの開発のために重要な数多くの知見を蓄積することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
溶液系で光捕集能を示すことが明らかとなった、アミロース導入カードランのポリチオフェン複合体について、実際に電極上に固定する事で光電変換能の評価を行う。これに先立って、アミロース導入カードラン、およびそのポリチオフェン複合体を電極上に固定する手法について検討を行い、その固定化法と形成される電極の構造およびその光電変換能について評価することで、アミロース導入カードランを媒とすることの構造的効果を明らかにする。さらに、光捕集システム構築に有用な色素を、アミロース導入カードランによって組織化した新しい、超分子材料の構築を検討する。 カードランの側鎖に抗菌性分子を導入した、新しい高分子抗菌剤の開発を進める。すでにバンコマイシンを導入したカードラン誘導体の合成とその抗菌活性に関する基礎的知見を得ている。今後は、そのカードラン誘導体の構造的特性の評価やらせん構造形成能と抗菌活性との相関などについて詳細に検討する。 酵母由来ベータ-グルカンについては、本年度得た知見を元に、熱応答的体積収縮能を利用したドラッグデリバリー用薬剤としての応用を検討する。近赤外光や交流磁場などの生体透過性の高い光・磁場などの照射によって効果的に薬剤を放出するシステムを構築するために、機能性分子を包摂した酵母由来ベータ-グルカンが形成するヒドロゲルの熱応答性の最適化を進め、このヒドロゲルに包摂した薬剤の放出能について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注した物品が年度内に納品されなかったため、当該の予算を繰越、次年度購入するため。納品は次年度の出来るだけ早い段階で行い、速やかに支出する。
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