研究課題/領域番号 |
18K05067
|
研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
田丸 俊一 崇城大学, 工学部, 教授 (10454951)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 超分子化学 / ヒドロゲル / 多糖 / らせん構造 / センシング / 抗菌活性 |
研究実績の概要 |
らせん性多糖であるカードランの側鎖に抗生物質を導入した半人工多糖の合成法を確立した。この技術を元に、様々な抗生物質導入率を持つ抗生物質導入カードランを合成し、これらの抗菌活性を評価した。その結果、溶液系では基本的に元々の抗生物質よりも抗菌活性の低下が見られたが、多糖の鎖長を短くした物については、より高い抗菌活性を示した。このことから、抗生物質を高分子に導入したことによって、薬剤濃度の低下によって、正味の抗菌活性が低下したものと考えられる。そこで、カードランが持つ製膜特性を利用して、抗生物質導入カードランを含む薄膜を調製し、その抗菌活性を評価したところ、非常に高い抗菌活性を示すことが確認された。今後、抗菌活性と抗生物質導入率の関係性を明らかにする事で、その作用機序を明らかにすると共に、実際の抗菌剤として応用展開を図る。 さらに、ジペプチドを導入したオリゴチオフェンからなる複数の双頭型界面活性剤を合成し、これらの中からpH応答型の超分子ヒドロゲルを開発することに成功した。このヒドロゲル系のpHを制御し、さらにアニオン性の多糖を加える事で、特定のアニオン種の添加に応答してヒドロゲルが形成する、新しい、アニオン性多糖識別系の構築に成功した。このゲスト応答型のヒドロゲル形成過程では、双頭型界面活性剤がゲスト不在下で顆粒状の凝集体を形成し、ここに特定のアニオン性多糖を添加した場合にのみ、繊維状の会合体へと相転移するという、ユニークな作用機構が働いていることが明らかとなった。さらにこの作用機構は、多糖上のアニオンの種類やその個数に応じて発現する事が明らかとなった。そこで、この特性を利用することで、本系を硫酸化グルコサミノグルカン類の識別システムへと応用することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに、カードランの側鎖にアミロースを導入した半人工樹状多糖を用いて、光捕集系の構築に成功した。さらに、天然酵母由来のグルカン類の効率的分離法を確立し、この多糖が持つらせん形成能を利用してドラッグデリバリーシステムなどに応用可能な機能性材料の創成に成功している。これらに加えて、今年度はカードランの側鎖に抗生物質を導入したらせん性多糖誘導体を調製し、カードランが持つらせん形成能や薄膜形成能を巧みに利用することで、高い抗菌活性を示す薄膜材料を開発することに成功した。本研究を通して、抗生物質の集積効果の発現と多糖が持つ構造特性との相関関係に関する理解が深まり、今後の研究の発展に繋がる大きな知見を得ることができた。さらに、得られた成果は単に高い抗菌活性の発現を実現しただけでなく、実用されることを目標とする上でより重要な、材料化に成功したと言う点で極めて有意義である。 さらに、超分子ヒドロゲル系とアニオン性多糖類との超分子的複合化を利用することで、硫酸化グルコサミノグルカン類の識別に成功した。硫酸化グルコサミノグルカン類の識別は手術用薬剤等の品質調査に重要なものであるため、本研究成果は、医療に貢献し得る有益な物である。またこの検出系では、ゾル-ゲル相転移という劇的な変化を利用する事で、より簡便な検出手法によって標的分子の識別を達成している。さらに、pH条件とアニオン性多糖の種類の双方が満たされた場合にのみ駆動するandゲート型の検出系であることから、高い選択性の実現にも成功した。興味深いことに、超分子会合体の会合状態を、アニオン性多糖類との錯形成によって動的に制御することに成功しており、これがゾル-ゲル相転移の発現原理となっている。以上の知見は、今後超分子と高分子を複合化した、超分子化学的戦略にもとづく検出系の開発において有用なものである。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度には十分に検討ができなかったアミロース導入カードランのポリチオフェン複合体について、実際に電極上に固定する事で光電変換能の評価を行う。これに先立って、アミロース導入カードラン、およびそのポリチオフェン複合体を電極上に固定する手法について検討を行い、その固定化法と形成される電極の構造およびその光電変換能について評価することで、アミロース導入カードランを媒とすることの構造的効果を明らかにする。さらに、光捕集システム構築に有用な色素を、アミロース導入カードランによって組織化した新しい、超分子材料の構築を検討する。 すでに成功しているカードランの側鎖に抗菌性分子を導入した高分子抗菌剤について、膜化条件や導入量を調整することで、抗菌活性が発現する条件の最適化を進めるとともに、その発現原理に対する理解を深める。これらの知見を元に、様々な抗生物質を様々な比率で導入した、新たな抗生物質導入カードランを合成し、その基本物性や抗菌活性に関する調査を行うことで、本研究戦略の適用範囲を広げる。 超分子ヒドロゲル系を用いたアニオン性多糖識別システムでは、ヒドロゲル化剤の構造の更なる最適化を行うことで、より選択性・検出感度が向上された検出系の構築を目指すと共に、これらの知見を元に、別の標的多糖に対して活用できる超分子ヒドロゲル系の構築を進めて、本研究戦略の一般性を高める。さらに、本戦略を応用して、色調変化や蛍光変化などの有益な読み出しが適用できる、新たな超分子型検出系の開発を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた日本化学会春期年会が開催中止となったため、年度末に関連の旅費等の支出がなくなった。その後、当該分の予算を可能な範囲で執行したしたが、残金が生じることとなった。繰越となる金額は大きくないので、次年度予算と合わせて、一年を通じて満遍なく使用する。
|