研究実績の概要 |
今年度は,まず,アルキル基の異なるテルアズレン誘導体の合成とFET特性の評価を行った.その結果、アルキルテルアズレン類の合成法を確立することに成功した.また,アルキル基の偶奇性によって溶解性と薄膜構造に顕著な違いが生じることを明らかにした.特に,奇数のアルキル基をもつ化合物では,溶液プロセスによって高い配向性をもった薄膜が得られた.続いて,ポリアズレンの合成を検討した.選択的なハロゲン化の条件を得ることが困難であり,現時点では重合に適したモノマーの合成には至っていない.しかしながら,これまで反応の進行が確認できなかった鈴木カップリング反応の最適条件を見出すことができた.本結果を基に,次年度はエンドキャップ型アズレンオリゴマーの開発を検討する.さらに,アズレンの2,6位で拡張されたビアズレンについて,ビアズレン異性体構造と電界効果トランジスタ(FET)特性の関係を詳しく調査することで,オリゴアズレンの電荷移動における分子構造と分子軌道対称性の両方の重要性と優位性を明らかにすることができた.具体的には,分子の平面性,共役系の拡張,再配向エネルギーに同様の傾向があること,正孔移動度には加えて分子軌道分布が影響を与えることを明らかにした.一方,ビアズレンの構造異性体である2,2'-ビナフタレンは分子の配向性が低くFET特性を示さなかった.すなわち,アズレンの2,6位での二量化は,5員環と7員環の構造的特徴によって線形構造を形成する.したがって,芳香族化合物の観点から比較的非対称であるアズレンは,ビアズレンでは高い対称性を獲得する.一方,ナフタレンの2位で二量化はアズレンとは対照的に構造の対称性を失う.以上の知見は,アズレンだけでなく奇数環からなる非交互炭化水素を基盤とした材料設計に重要な指針を与えるものである.
|