研究実績の概要 |
酸化還元反応や異性化反応を司る天然物生合成の位置選択的酵素反応機構を、計算化学的手法を用いて解明することが本研究の目的である。本年度、生化学的にも医学的にも重要なアルド-ケト還元酵素スーパーファミリーに属する3α-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3α-HSD)触媒とNADPH補酵素による5α-ジヒドロテストステロンの還元反応について、計算化学的手法を用いて検討した。昨年度行った分子動力学シミュレーションに引き続き、量子力学計算と分子力学計算のハイブリッド法であるQM/MM計算を用いて、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を補酵素とした場合の反応の原系、還元反応の遷移状態、還元体生成物(3α-アンドロスタンジオール)の構造を求めた。部位特異的突然変異体の検討では、QM/MM法による計算の収束が困難であったが、還元反応経路については求めることができ、令和2年度中に論文投稿をし、令和3年4月に学術雑誌に採択された。酵素についてはNADPH,基質、基質と水素結合をしている5つの水分子、チロシンやヒスチジンおよびNADPHにπスタッキングを起こしているチロシン216など232原子をQM領域に設定すると、還元の活性化エネルギーが18.7 kcal/molで、生成物のエネルギーが反応中間体に比べて9.4 kcal/mol低くなるなど、リーズナブルな結果を与えた。これよりも小さいQM領域を用いると、活性化エネルギーが高く見積もられたりする。NADPHにπスタッキングを起こしているチロシンとの非共有結合性相互作用も反応の活性化に重要であることを示唆する結果を与えた。また、木材腐朽担子菌Ganodermaから単離された天然物ganocolossusin AおよびDの立体配置決定もTD-DFT法を用いて決定した。
|